▼ マッキノン家の秘密1
ジャスティンとほとんど首なしニックが石になってから、学校中がパニックになった。特に、ジャスティンが石になったことは、ハッフルパフ寮に大きな陰りをもたらした。毎日、寮で顔をあわせていた後輩が急にいなくなってしまったことは、ソフィアの心にポカリと穴を開けた。ソフィアでさえ寂しく感じたのだから、アーニーやハンナたち同級生は特に辛いだろう。
クリスマス休暇、居残るのはハリー、ウィーズリー家一同、スリザリンの数名だけだった。みんな少しの期間だけでもこの城から離れたいに違いない。マグル生まれなんて特にそうだ。
城を重苦しい空気が漂っていた。ソフィアはドウェインが手紙で過去に死者が出たと言っていたことを思い出した。
継承者が解き放った部屋の中の恐怖は、一体なんだというのだろうか。猫だけじゃない、人間だけじゃない、幽霊でさえも、石化されてしまった。「恐怖」は、死んだ者さえもう一度眠らせることができるというのだから、ソフィアは恐ろしくてたまらなかった。
ハリーが廊下を通れば、みんな波のようにサッと引いて行く。フレッドとジョージが、二人でわざわざハリーの前を立って、王様のように扱った。ハリーたち三人が廊下を行進している光景を、ソフィアはよく見かけた。
「したーにぃ、下に、まっこと邪悪な魔法使い、スリザリンの継承者様のお通りだ……」
フレッドが先触れし、廊下で人が我先にと離れる姿を楽しそうに見ていた。
「ハリー様は、はやく行かねばならぬ」フレッドが重苦しく言った。
「そうだとも。牙をむき出した召使いとお茶をお飲みになるので、『秘密の部屋』にお急ぎなのだ」ジョージがうれしそうにクックッと笑った。
近くにいたハッフルパフの上級生まで、大げさに肩を跳ねさせて三人から離れて行く。
フレッドとジョージの二人は、ちっともハリーが継承者だなんて思っていない様子だった。ソフィアは自分が恥ずかしくて、穴に入りたい気分だった。一瞬でも、ハリーが継承者なのではと思った自分が恥ずかしかった。
でも、ハリーは何故あの部屋にいたのだろう。それに、あの男のは誰だろうか。ソフィアは首を傾げた。あの夢は、予知夢なのかどうかはさておき、間違いなく何か意味があるはずだとソフィアは思っていた。
「ねえ、ハリー……あなた、また変な場所に行ってないわよね?」ソフィアは思いきって質問した。
「えっ」
ハリーは焦ったような声を上げた。目は不自然にソフィアをまっすぐに見つめて、清廉潔白ですと訴えているような顔だった。
「変なところなんて、どこにも行ってないさ」
ハリーの反応もソフィアを確信させた。ハリーは今回も、事件に首を突っ込もうとしているに違いない。
「ハリー、くれぐれも変な場所に行ってはダメよ」
ソフィアが念押しすると、ハリーは目を泳がせた。
学期が終わる頃には、深い静寂が城を包んだ。みんながヒソヒソと目立たないことを心がけて生活しているようだった。(もちろん、ウィーズリーの双子は除く。)ソフィアは、早く家に帰りたいとトランクを持って玄関ホールに来ていた。
「ソフィア、帰っちゃうのね」
ジニーがソフィアに話しかけた。
「ごめんね」
ソフィアが謝りながらジニーこ頭を撫でる。ソフィアは屈んで目線の高さを合わせると、正面からジニーの目をじっと見つめた。
「いい? 変なところには行かないって約束して」
冷たい部屋で、静かに倒れているジニーを思い出した。あの時近寄ることは叶わなかったソフィアには、彼女が生きているのかすら分からなかった。
「変なところ?」
「そうよ。とにかく、夜は出歩いちゃダメだし、誰もいないような所へ行ってはダメよ」
「私はフレッドでもジョージでもないのよ」
ジニーが心外だといった様子で、腰に手を当てながら言った。お冠のようだった。ソフィアはごめんねと明るく笑いながら謝った。
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