▼ クィディッチ5
「勝ったぜ!」
フレッドは、ソフィアが降りてくると何か言う暇を与えずに抱きついた。ユニフォームはぐっしょりと濡れていて冷たい。ソフィアはまるで湖に入ったかのようだと思った。
「おめでとう」
ソフィアは、大人しく抱きしめられたまま、フレッドの背中をポンポンと叩いた。
「何があったの?」
フレッドの勝利の興奮が落ち着いたところで、ソフィアは聞いた。
「ブラッジャーに誰かが悪戯したんだ。ハリーしか狙わなくて――」
「そうじゃなくて! ロックハートよ!」
ソフィアは首を振った。
「多分あいつ、ハリーの折れた骨まんま消しちまったぜ」
ソフィアはあんぐりと口を開けた。信じられない。せいぜい、骨を粉々にするとか、余計に折る程度だと考えていたからだ。どうやらソフィアの認識が甘かったようだ。
フレッドがもう見てられないとばかりに片手で目を覆い、天を仰いだ。ソフィアもそうしたい気分だ。
「嘘でしょ……」ソフィアが呟いた。
「まさかだよな」フレッドは同意した。
「だって、どうやったら消せるのよ。骨折治療よりも、高度な呪いじゃない!」
ソフィアの声は、どんどん大きくなった。今や叫び声と同等だった。ジョージが恨めしい目でやってきて、ソフィアとフレッドに声をかけた。
「お熱いのも良いですが、そろそろハリーのお見舞いに行きませんかね?」
ソフィアとフレッドは思わず二人揃って布で覆われていない肌全て真っ赤にした。
先に歩くクィディッチのメンバーをよそに、ソフィアはフレッドのユニフォームの裾を掴んで立ち止まった。フレッドがつられて立ち止まる。フレッドは首を傾げ、ソフィアに目線を合わせるように頭を傾けた。
「本当に、おめでとう。フレッド……とっても、かっこよかったわ」ソフィアは勇気を振り絞って耳打ちした。
まるで心臓が喉から飛び出そうだとソフィアは思った。ドキドキと煩く自己主張して、ひどく胸が痛かった。フレッドは、ソフィアの言葉を聞いた瞬間にピーンと背筋を伸ばした。身長が高い上に、上を向いているものだから、ソフィアにはフレッドがどんな表情をしているのか分からなかった。
フレッドが、もう一度ソフィアを抱きしめた。ソフィアは、フレッドのびしょ濡れ泥だらけのローブに頭から突っ込んでいた。びしょ濡れのローブは、ソフィアのローブまで重くする。重みを助長させるかのように、フレッドはソフィアの肩に顔を埋めてグリグリと押し付けた。フレッドの表情は分からなかったが、耳まで真っ赤になっていた。
「ソフィアが、応援してくれたおかげだから」フレッドが、ソフィアの肩に顔を埋めたまま言うので、声はくぐもっていた。「ありがとう」
フレッドは顔を上げると、今度はソフィアの顔を上から覗き込んだ。ソフィアは、今だけは顔を見られたくなかった。恥ずかしさや嬉しさで、ソフィアは自分が今にも死んでしまうんじゃないかと思った。
真っ赤になったソフィアの顔を見て、してやったりとフレッドがにやりと笑う。それでも、耳が赤くなったままで格好つかない。そんなところがフレッドらしいとソフィアは笑った。王子様みたいな振る舞いはフレッドには似合わない。
「格好つけないで」
ソフィアは腕を伸ばしてフレッドの頬を抓った。
「照れたくせに」
フレッドは、揶揄うように言った。突然切り替えたように意地悪な笑みを浮かべた。
「お見舞いにはグリフィンドール生しか病室には入れないんだ。またな」
フレッドはソフィアの頭をくしゃくしゃに混ぜた。取り残されたソフィア、は棒立ちになって、小さくなる後ろ姿をじっと見つめた。
「……死んじゃう」
ソフィアは呟いて、胸を押さえた。胸が痛い。ドキドキして苦しい。この苦しみが、どこか甘酸っぱくて嬉しかっあ。ソフィアは、ニヤニヤとだらしない笑みが顔中に広げた。
「早く、告白してくれればいいのに」
自分がする勇気はないくせに、随分と図々しいものだとソフィアは自分の発言に笑った。
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