immature love | ナノ


▼ クィディッチ1

 ロックハートは、どこかのクラスでピクシー妖精を放し、授業を滅茶苦茶にしたらしい。ピクシー妖精に髪型やローブをめちゃくちゃにされているロックハートを思い浮かべて、ソフィアはひっそり笑った。

 その授業の失敗のせいだろう。ロックハートの授業は、フィクション小説(ロックハートは、自身の経験を書いただけと言い張っている。)を朗読し、劇的な場面は生徒に演じさせることが専らだった。勿論、主役のロックハート役は彼自身が演じていた。

「おやおやおや! セドリック、君はプリンス・ハッフルパフなんてあだ名があるそうですね!」

 セドリックは、あからさまに顔を引き攣らせた。プリンス・ハッフルパフという称号が、ロックハートにバレてしまったらしい。

「折角だから、セドリックにこの場面の再現を手伝ってもらいましょう! ほら、百五十ページを開いて……」

 悲劇的なことに、セドリックは今日の演劇でキャスティングされた。

「ロックハートさん、あんた魔法使いって本当だべか」

 台詞を読み上げるセドリックの声はうわずっていた。

「セドリック、もっと大きな声で――そう、そう――信じられないかもしれませんが、この平和な田舎で毎晩狼男が現れ村人を困らせていたんです。通りがかった私は――」

 ロックハートは熱を込めて喋った。トランシルバニアの田舎っぺを演じさせられているセドリックの顔は、マグマのように真っ赤だった。セドリックが演じると、田舎の純朴な青年になるのだから不思議だ。

「可愛い」

「こういう時も真面目なんだもの。素敵よね」

「ふふふ、真っ赤だわ」

 女子生徒のくすくす笑いが小波のように広がった。

「皆さん、ここが一番いい場面ですよ」

 ロックハートは不機嫌になった。注目の的がセドリックになっていると気付いたらしい。ロックハートはそれ以来指名することはなくなった。

 ギリアンも犠牲となった。ギリアンは教卓の前で狼男を演じ、たった今ロックハートに打ち倒されたところだった。

 明日は待ちに待ったクィディッチ開幕戦だ。早く授業が終わらないものかと、ソフィアは七冊の教科書を壁にして隠れるように突っ伏した。隣に座っているセドリックも咎めなかった。

 ロックハートが狼男を倒した名場面で拍手が少ないものだから、ロックハートは不思議そうな顔で首を傾げた。

「みなさん、此処はこの作品で1番の名場面ですよ。なにせ、私が闇の魔力を根絶することに生涯を捧げると決めた場面でもあるんですからね……」

 まばらな拍手が起き、ロックハートが更に語ろうとしたところで時計は授業の終了を指した。みんなロックハートの終了の合図も待たず、鞄に教科書を詰め始める。合同授業のスリザリン生の一部に至っては、終了の時刻とともに教室を出ていった。ソフィアははじめてスリザリン生を尊敬した。

「明日はシーズン最初のクィディッチの試合でしたね。グリフィンドール対スリザリン。えぇ、えぇ、スリザリンの皆さんはきっと私に教えて欲しいことだったでしょう。そうでしょう。もしよろしければ、今日の放課後にでも伝授して差し上げますよ。実は私、ナショナル・チームに誘われたこともありましてね……」

 ロックハートは話している途中で、スリザリン生がほとんど残っていないことに気付いたようだった。ロックハートは、急いで鞄に教科書を詰めているセドリックに目をつけた。

「セドリック、ひとこと言っておきましょう。自分から王子なんて名乗るのは賢明じゃない……」

「名乗ってません」

 セドリックの顔は真っ赤だった。本当に心外ですという顔をしている。


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