▼ 秘密の部屋6
ふくろう小屋の外に出て城へ戻る道筋をたどっていると、赤いローブの人たちが前を通る。思わず駆け寄って、ソフィアは目当ての人物の腕を掴んだ。
「フレッド!」ソフィアが呼んだ。
「おいおい、間違えるなんて酷いな」呆れたようなジョージが、眉を顰めて付け足した。「どうした? 真っ青だぞ」
ジョージが屈んで、ソフィアを心配そうに見る。フレッドも、オリバー・ウッドに声をかけてから、ソフィアの方へ寄って来た。ハリーが心配そうに此方を見ていたが、フレッドとジョージ以外の選手たちはクィディッチ競技場へ向かった。
「ごめん、練習の邪魔しちゃったわ。もうすぐ試合なのに」
フレッドとジョージが雨の日も欠かさず練習していたことを思い出し、ソフィアは眉を下げた。ジョージの腕を慌てて離す。
「問題ないよ。練習を休んだところで僕らが足手纏いになるわけないだろ」
「実力派なのさ」
気にするなと首を振るフレッドに頷きながら、ジョージが茶化すように言った。
「何があったんだ?」
フレッドが聞いた。ソフィアは口を噤む。何があったのか聞かれても、ソフィアは答えることができない。何も覚えていないが嫌な予感がするなんて話を、誰が真面目に聞いてくれるというのだろうか。
「違うのよ。ただ、怖い夢を見て……別に、大丈夫よ」
ソフィアが笑みを貼り付けて言った。
「怖い夢を見ただけでそんな青ざめないだろ」
ジョージが訝しむように言った。ソフィアは、笑って首を振った。
「秘密の部屋の継承者の敵って、マグル生まれのことでしょ。自分も石になる夢を見て」
嘘で引き攣った笑みは、恐怖によるものに見えたらしい。ジョージがソフィアの肩を叩く。ジョージなりに励まそうとしているようだった。
「アスター家の一人娘なんだから、狙われるわけないだろ」
フレッドが励ますように言った。それにソフィアは頷く。
「ありがとう」ソフィアははにかんだ。「元気出たわ。引き止めちゃってごめんなさい」
励まそうとしてくれるフレッドとジョージの優しさが嬉しかった。ソフィアは笑みを浮かべたまま、逡巡した。
「そういえば、ジニーは大丈夫?」ソフィアは心配を顔に浮かべた。「昨日会ったけど、様子が変だったわ」
双子は、そっくりの仕草で首を振った。
「全然良くならないんだ」ジョージが困りきったようにため息をついた。
「昨日の夜なんて、特に調子悪かったな」フレッドが顔を歪めた。
「そうなの」
ソフィアは心配で俯いた。昨日、ガクガクと震えていたジニーの姿を思い出した。あれは尋常ならない様子だった。
「私も、朝ご飯の時に声かけてみるわ」
ソフィアはそう言って微笑んだ。
「ありがとう。助かるぜ」ジョージが笑った。
「くれぐれも、自分を優先させろよ?」
フレッドが、真剣な顔をして言った。ソフィアが頷くと、笑みを浮かべてソフィアの頭をぐしゃりと撫でた。
「じゃあ、俺らは練習に行くよ。何かあったらすぐ呼べよ」
フレッドはソフィアに手を振ると、箒を担ぎ直してピッチへと向かった。ソフィアは、心が温かくなったように感じた。起きた時とはまるで違う。
ソフィアは、軽い足取りで寝室に戻った。寝室では、レティとマルタが起きてきたところだった。ソフィアは挨拶して、すぐに鞄を掴んで大広間に向かう。
「ソフィア、おはよう」
ジニーから声をかけてきたので、ソフィアは驚いた。視線を右から左へと泳がせていたが、意を決したようにソフィアを見た。
「ジニー、あなたに渡したいものがあったの。昨日落としてたわよ」
ソフィアが鞄から日記を取り出すと、ジニーは青ざめた。
「中は見てないわよ」ソフィアは、咄嗟に嘘をついた。
「ありがとう……」
ジニーはソフィアから日記を受け取ると、用事を思い出したと言いだした。逃げるように去っていくジニーの後ろ姿を、ソフィアは眉を下げて見送った。
ジニーが昨日今日とソフィアに打ち明けようとしたことは何だったのか。残念なことに、ソフィアにはこれっぽちも想像がつかなかった。
prev / next