▼ 秘密の部屋5
まだ日も出ていない早朝に、ソフィアは飛び起きた。まだ息が荒く、胸が上下する。恐怖で指先が震えた。こんなにも恐ろしいのに、何の夢を見たのか思い出せなかった。
この恐怖は、以前も夢で感じたことがある。クィレルの頭に寄生していた、悍ましい生き物を見た時だ。何か良くないことが起きる。その事だけは確信していた。
ベッドに置かれている日記が視界に入った。ソフィアは、何となく視界に入れたくないと思い、鞄にしまった。どうせ今日返しに行くのだから、入れておいた方が良いはずだ。
ソフィアはベッドから降りて、机に向かった。頭の中がぐちゃぐちゃで纏まらない。ただ、思いの儘に羽ペンを滑らせた。
大好きなパパへ
学校で、おかしなことが起きています。
ミセス・ノリスが石化して、ダンブルドア先生でも治せないようなんです。
(ミセス・ノリスは管理人の飼い猫で、とても性格が悪く全生徒に嫌われています。)
壁には血文字で「秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ」と書かれていました。
前に――
ソフィアは我に返ったように顔を上げ、ペンを置いた。ミセス・ノリスの夢のことを書くべきか迷っていた。クィレルに、夢について誰にも言うなと言われたことを、ソフィアは思い出した。
いずれ両親に相談する必要はある。そうだとしても、秘密にしなくてはいけないことを、誰かに盗み見される可能性もある手紙に書くべき内容ではない。ソフィアは小さくため息をついて、もう一度ペンを取った。
前に、部屋を沢山の魔法使いが部屋を探したけれど、見つからなかったと聞きました。
でも今回のようなことがあったので、不安です。
本当に部屋はあると思うんです。
継承者の敵とは、誰のことだと思いますか?
マルフォイは(スリザリンの二年生で、この前書店にもいた嫌なやつです。)継承者の敵はマグル生まれだと言っていました。
パパはどう思いますか。
愛を込めて ソフィア
ソフィアはドウェインに向けて書いた手紙を半分に折り、封筒に入れた。封筒に蝋をして閉じる。ソフィアは、パジャマにガウンだけ引っ掛け、かかとを潰してスニーカーに足を突っ込み、勢いのまま寮を飛び出した。
ソフィアは静まり返った城の中を、地下から西塔のてっぺんにあるふくろう小屋まで急足で進んだ。小屋は円筒形の石造りで、かなり寒い。ビュンビュンと隙間風が吹き込んでいた。床は、ワラやふくろうの糞、ネズミの骨などで埋まっている。
塔のてっぺんまでびっしりと取りつけられた止まり木に、ありとあらゆる種類のふくろうが、何百羽も止まっている。そのほとんどが眠っていた。その中に、ガニメドもいた。
「起こしちゃった? ごめんね、怒らないで」
不機嫌そうに嘴をカチカチと鳴らすガニメドをゆっくり撫でる。ふくろうフーズをあげると、許してくれたらしく渋々前足を出してくれた。
手紙を足に括り付け、そのままガニメド を腕に乗せ外に出る。慌てていてグローブも忘れたから、ガウン越しでも爪が食い込んで痛かった。ガニメドを外へと送り出す。影が見えなくなるまで、ソフィアは見送った。
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