▼ 秘密の部屋2
「ねえ、ソフィア」
ジャスティン・フィンチ‐フレッチリーが、恐る恐るソフィアのところへ来た。ジャスティンは、ハッフルパフの二年生で、マグル生まれなので近頃は酷く怯えていた。
「どうしたの? ジャスティン」
ソフィアは優しく言った。
「スリザリンの継承者って、ハリーなのかなあ」
ジャスティンの発言に、ソフィアは驚いて目を丸くした。
「そんなわけないじゃない! ハリーはまだ二年生よ。先生方も治せない石化の呪いなんて、出来るわけないでしょう」
ソフィアは笑い飛ばしたが、ジャスティンは「そうだね」と落ち込んだ様子のままアーニーたちのもとへ行った。二年生が部屋の隅のソファを陣取って、深刻そうに顔を突き合わせて話し合っている。
ソフィアはこれ以上この暗い空気の中にいたくなかった。ソファから体を起こす。談話室を抜け出した。
フラフラと廊下を歩いていると、ジニー・ウィーズリーがいた。本を数冊抱えている。この辺りに教室はないのにと、ソフィアは首を傾げた。
ジニーの目は泣き腫らしていて、顔は真っ青だった。フレッドが、ジニーが体調が悪そうだと言っていたことを思い出した。ミセス・ノリス事件で、さらに心乱されたのだろうか。
「どうしたの?」ソフィアは優しく声をかけた。
「ソフィア」
ジニーは、声をかけられるまでソフィアに気付いていなかったらしい。目を見開き、酷く驚いている。ソフィアはジニーのもとまで行き、頭を撫でた。
「久しぶりね。ジニーがハッフルパフに来てくれなくて、寂しいわ」ソフィアはさりげないつもりで言った。「寮は違うけど、いつでも頼っていいのよ。勉強でも、恋愛でも、友達でもね」
ソフィアは、茶目っ気たっぷりにウインクした。悩みは何だと根掘り葉掘り聞くことは、ウィーズリーの他の兄弟たちで十分なはずだ。
ジニーは、眉間に皺を寄せた。目が潤み、泣くことを我慢しているような表情だ。今にも泣きそうな表情に、ソフィアは慌てた。
ハッフルパフのマグル生まれの下級生でさえ、こんなに疲弊している生徒はいなかった。兄弟も同じ寮にいて、純血のジニーがここまで追い詰められるなんて、何かがおかしい。ソフィアは慌てたようにジニーの両肩に手を添えた。
「どうしたの」ソフィアはジニーに目線を合わせた。「困ってることがあるなら言って。力になるから」
ジニーはガクガクと震え始めた。
「ソフィア……」弱々しい声だ。「あのね――」
カチャリと小さな音がした。ソフィアが音のした方向を見た時、先ほどジニーがいた所からバサリと何かが落ちる音がした。続いて、駆けるような足音。ソフィアが慌てて向き直った時には、ジニーは既に走り去ってしまっていた。
足元に、小さな薄い本がある。見慣れない手帳だ。ボロボロになるまで使い込まれている。ソフィアは屈んで、本を拾った。「一九四三年」と表紙にうっすらと書いてある。五十年も前の代物だった。
「ジニー、こんなもの使ってたかしら」
裏表紙を見ると、ロンドンのボグゾール通りの新聞・雑誌店の名前が印刷してあった。ウィーズリーおじさんから貰ったのかもしれないとソフィアは納得した。(なにせ、ウィーズリーおじさんは大のマグルマニアだった。)明日にでも届けようと、ソフィアはローブのポケットにしまった。
prev / next