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▼ 秘密の部屋1

 ミセス・ノリスは死んだのではなく石になったらしい。あれから、学校中がミセス・ノリスの襲われた話でもちきりだった。

 フィルチは、ミセス・ノリスが襲われた場所を往ったり来たりするので、学校の空気をより重苦しくしていた。フィルチが壁に書かれた文字を消そうと「ミセス・ゴシゴシの魔法万能汚れ落とし」でこすっている姿を横目に、ソフィアたちは廊下を足早に通り抜けた。

 犯行現場にいる時以外は、フィルチは血走った目で廊下を歩いては、生徒を処罰する機会を虎視眈々と狙っていた。ソフィアとレティが笑いながら話していたら、フィルチが来て「いま、笑っただろう! ミセス・ノリスが石になって喜んだな!」と酷いがなり声で難癖をつけられたこともあった。

 ソフィアは寮に引きこもる時間が増えていった。ソフィアがまさに、マルフォイの解説によるところ、「継承者の敵」にあたるという理由があった。

 アスター家は、魔法界の中でも割と名前が通る純血の一族だった。ソフィアはアスター家の実子として通っているので、ソフィアが実はマグル生まれだと知っている者はウィーズリー家を除いてこの学校にはいない。恐らく、ソフィアの身に危険が及ぶ可能性は限りなく低い。だから、フレッドも表立ってはソフィアの心配をしないのだろう。

「ホグワーツの歴史を借りて来たぜ!」

 談話室の出口へと続く扉が開き、ギリアンが意気揚々と普段なら誰も読まないような本を掲げた。「ホグワーツの歴史」というとてつもなく分厚い本だ。この本は、図書室でも二週間は予約でいっぱいだ。間違いなく、ホグワーツで今一番人気の本だった。

「俺が今から読み上げるから、静かにしてくれ」少し気取ったようにギリアンが話し始めた。「よろしい」

 談話室中の全員が、一言一句聞き逃すまいと静まり返る。その様子を見て、わざとらしく咳払いをしながらギリアンが本を開いた。

「純粋な魔法族の家系にのみ教育を与えるべきか否かという点で創設者4人の間で意見が割れた。特にスリザリンとグリフィンドールが激しく言い争い、結果としてスリザリンはホグワーツを去ることになった」

「やっぱり、スリザリンって大元から腐ってるよ」

 アーニーが口を挟んだので、ギリアンがぎろりとアーニーを見た。アーニーが黙ったことを見届けて、ギリアンは再開した。

「これは歴史的確証もない話であり、単なる余談であることを念頭に入れて欲しいが、当時スリザリンが城を去る時に『ある部屋』を作ったという空想上の伝説がある。

 伝説によれば、スリザリンは『秘密の部屋』を密封し、この学校に彼の真の継承者が現れる時まで、何人もその部屋を開けることができないようにした」

「継承者? 壁の文字にも書いてあったわ」

 今度はリーアンが口を挟んだ。ギリアンは無視して続けた。

「その継承者のみが『秘密の部屋』の封印を解き、その中の恐怖を解き放ち、それを用いてこの学校から魔法を学ぶにふさわしからざる者を追放すると言われている。

 読者の諸君は安心して欲しい。この本が書かれるに至るまで、幾度となく最高峰の魔女や魔法使いが城を調べたが、部屋は存在しなかった。

 ただ、城には様々な隠された部屋があることから、今でもこの部屋の伝説を信じる者は多い」

 ギリアンが本を閉じた時、談話室は静まり返っていた。

 誰かの「伝説は本当なんだよ」という小さな呟きが、部屋に響いた。いつも暖かくて居心地のいい穴熊の巣穴は、今はまるで地下牢のように静かで冷たい。ソフィアははじめて、この談話室が居心地の悪いと感じた。


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