immature love | ナノ


▼ 穢れた血8

 ソフィアは、フレッドと一緒に廊下を走っていた。フレッドがソフィアの手を掴んで、前を走っている。

 此処は、三階の廊下あたりだろうかとソフィアはぼんやり思った。前方には、さらにハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がいた。フレッドは、ソフィアの歩幅に合わせて走ってくれているので、三人との距離は縮まらなかった。

 次の角を曲がると、ハリーたち三人が呆然と立ちすくんでいた。見上げた視線の先に、何かが光っていた。ソフィアはフレッドと一緒に、そーっと近づいた。窓と窓の間の壁に、高さ三十センチほどの文字が塗りつけられ、松明に照らされてちらちらと鈍い光を放っていた。


 秘密の部屋は開かれたり
 継承者の敵よ、気をつけよ


「なんだろう――下にぶら下がっているのは?」ロンの声は微かに震えていた。

 フレッドとソフィアも、三人のもとへ向かった。壁に近づくと、ロンの視線の先に何かぶら下がっていることにソフィアも気が付いた。暗い影に目を凝らした。

 一瞬にして、それが何なのかわかった。ソフィアはのけ反るように飛びのいた。管理人の飼い猫、ミセス・ノリスだ。松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がっている。硬直し、目はカッと見開いたままだった。

 しばらくの間、五人は動けなかった。

「此処を離れた方がいい。この場にいるのは大分マズいぜ」

 フレッドが言った。ソフィアの手を強く握って、一歩、二歩と歩き始めた。ソフィアは立ち止まり、ミセス・ノリスをじっと見つめた。

「助けてあげた方が……」ソフィアが戸惑いながら言った。

「フレッドの言うとおりにして」ロンが言った。「ここにいるところを見られないほうがいい」

 すでに遅かった。遠い雷鳴のようなざわめきが聞こえた。廊下の両側から、何百という足音やお喋りする声が聞こえてきた。生徒たちが廊下にわっと現れた。

 生徒たちも、すぐに廊下の異変に気付いた。おしゃべりする声も消え、沈黙が生徒たちに広がった。おぞましい光景を前のほうで見ようと押し合っている。

 その傍らで、五人は廊下の真ん中にぽつんと取り残されていた。フレッドが、ソフィアの手をますます強い力で引いて、人混みに紛れようとした。

「継承者の敵よ、気をつけよ! 次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!」

 ドラコ・マルフォイが大声で叫んだ。人垣を押しのけて最前列に進み出たマルフォイは、ハーマイオニーを見て、それから硬直したミセス・ノリスを見てニヤリと笑った。

「なんだ、なんだ? 何事だ?」

 アーガス・フィルチが肩で人混みを押し分けてやってきた。ミセス・ノリスを見たとたん、フィルチは恐怖のあまり手で顔を覆い、たじたじと後ずさりした。

「わたしの猫だ! わたしの猫だ! ミセス・ノリスに何が起こったというんだ?」フィルチは金切り声で叫んだ。そしてフィルチの飛び出した目が、ソフィアたちを見た。  憎しみが溢れ出た、血走った目だ。

「おまえだな!」叫び声は続いた。「おまえだ! おまえがわたしの猫を殺したんだ! あの子を殺したのはおまえだ! 俺がおまえを殺してやる! 俺が……」

 フィルチの声が、段々と遠のいていく。目を覚ますと、そこはソフィアの見慣れた寝室だった。廊下でもなければ、壁に文字も書かれていない。カーテンを捲れば、他二つのベッドはカーテンが閉じきっていて、レティとマルタも寝ていると分かる。ソフィアは水差しからコップに水を注ぎ、一杯分すぐに飲み干した。やけに喉が渇いていた。トランクから、奥底に仕舞い込んでいたアルバムを引っ張り出した。

 ソフィアはカーテンを閉め、ベッドに再び潜り込んだ。アルバムを抱えたまま、自分の膝を引き寄せて丸くなる。ソフィアには、今見た夢が、ただの悪夢ではないような気がした。目が冴えて、再び眠ることができそうになかった。

 ――継承者の敵よ、気をつけよ! 次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!

 マルフォイの台詞が、ソフィアの耳にこびりついた。

「私はアスター家の娘だもの」ソフィアの不安にゆれた声が響いた。「大丈夫よ……」



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