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▼ 穢れた血3

 闇の魔術に対する防衛術の授業は、全くニンニク臭くない教室で行われた。ただし、ロックハートの本を七冊も持っていかなくてはいけないから荷物量が大変だった。ソフィアは教室の一番奥に陣取った。

 クラス全員が着席すると、ロックハートは大きな咳払いをした。ロックハートは生徒のほうにやってきて、最前列に座っているレティから「トロールとのとろい旅」を取り上げた。ウインクをしている自分自身の写真のついた表紙を高々と掲げた。

「私だ」本人もウインクしながら、ロックハートが言った。ソフィアの隣で、ギリアンが吐きそうな声を上げた。

「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして、『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞――もっとも、私はそんな話をするつもりではありませんよ。バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払ったわけじゃありませんしね!」

 ロックハートはつらつらと自身の称号を並べ立てた。ソフィアには、一つも聞き取ることができなかった。今年の先生は随分とおしゃべりらしい。ソフィアはぼうっと話を聞き流した。

「全員が私の本を全巻そろえたようだね。大変よろしい。今日は最初にちょっとミニテストをやろうと思います、心配ご無用――君たちがどのぐらい私の本を読んでいるか、どのぐらい覚えているかをチェックするだけですからね」

 テストという言葉に、ソフィアは意識が覚醒した。初回の授業で何をテストするのか、ソフィアには見当も付かなかった。少なくとも、ソフィアは一冊も、一度も教科書を開いていないので、どうせ答えられないことだけは明白だった。

 ロックハートはテストペーパーを配り終えると、教室の前の席に戻って合図した。

「三十分です。よーい、はじめ!」

 ソフィアはテスト用紙を読んだ。

 
 一、ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?
 二、ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は何?
 三、現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?

 
 ロックハートのプロフィールを問う質問が、延々三ページ、裏表に渡って続いた。こんなに学年を問わず実施できるテストも少ないとソフィアは素直に感嘆した。ロックハートの心臓の強さは、一体どうなっているのか。(通常とは異なる意味で)ロックハートは心臓に毛が生えているとソフィアは思った。

 ギリアンは羽根ペンを早々に放り投げて、机の上に突っ伏した。ソフィアは、いくら馬鹿らしいテストでも白紙解答はできないと小心者の自分が主張し、適当に答えを予想で埋めていった。

 最初は正解を狙ってあり得そうな内容を書いていたソフィアだが、終盤は馬鹿らしくなってロックハートの寸分の狂いもないカールヘアを見ながら、「ロックハートの大望は、ロックハート・ブランドの整髪剤を売り出すこと」なんて回答を書いた。

 三十分後、ロックハートは答案を回収し、クラス全員の前でパラパラと答案に目を通した。

「チッチッチ――私の好きな色はライラック色だということを、ほとんど誰も覚えていないようだね」

 セドリックが、こんな先生がホグワーツにいるなんて……という表情でロックハートを見つめていた。男子生徒はくすくすと笑っていて、真面目に聞いていないことが明らかだった。前列に座っているレティと他数名の女子生徒だけが、うっとりとロックハートの演説に聞き入っていた。


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