▼ 穢れた血1
新入生歓迎会は、ダンブルドアやマクゴナガル、スネイプまでもが席を外していた。ソフィアたちは何事だろうとひそひそ噂していたが、終わってすぐに「夕刊予言者新聞」が答えを教えてくれた。ハッフルパフの談話室の中央で、三年生のリーアンが夕刊を広げた。
「空飛ぶフォード・アングリア、訝るマグル」リーアンが読み上げた。「ロンドンで、二人のマグルが、郵便局のタワーの上を中古のアングリアが飛んでいるのを見たと断言した。今日昼ごろ、全部で六、七人のマグルが……」
ソフィアも見慣れた、トルコ色の旧い車が空を飛んでいる写真が新聞一面を飾っている。ソフィアは、この車を運転した人物にすぐピンときた。ハリーとロンに違いない。
談話室の隅では、ハリーとロンの同級生たちが深刻そうに話していた。
「ハリーとロンは、歓迎会にもいなかっただろう? 二人が運転してたんだよ。そのまま最後は墜落したって……」アーニーがひそひそと話している。
「じゃあ、退校になったってこと?」ハンナが囁き返した。
「墜落したって、ハリーたち死んじゃったのかな」ジャスティンが慌てたように言った。
「いや、スネイプが退校処分にしたって聞いたよ……暴れ柳をへし折ったんだってさ」
アーニーが大袈裟に首を振る。芝居がかった仕草だが、他二人には効果的面だった。唾を飲み込む音がソフィアにまで聞こえてくる。
「かっこいい……」ジャスティンが感動したように呟いた。
二年生たちの会話を聞いて、ソフィアは心配で胃が捩れそうだった。ハリーとロンは本当に退校処分になったのだろうか。ウィーズリーおじさんの違法改造は罪に問われないのだろうか。心配は次々とソフィアの頭の中に思い浮かぶ。
ソフィアがあまりにも不安そうに、色んな噂話に聞き耳を立てているので、レティはソフィアを無理やり寝室へと引っ張って行った。
「ハリーとロン、退学にならなかったらしいよお」
マルタが後から寝室に入って来ると、ソフィアに言った。
「なんで知ってるの?」ソフィアが首を傾げた。
「スネイプが、残念そうにそう言ってたって」マルタが肩をすくめて付け足した。「エイディが言ってたの」
「エイディ?」レティが聞き返した。「まさか、エイドリアン・ピュシー?」
エイドリアン・ピュシーとは、スリザリンの上級生で、クィディッチのチェイサーだった。去年のバレンタインで、マルタにバレンタインカードを贈っていた。
「まーね」マルタがニヤリと笑った。
ソフィアの不安は、一気に吹き飛ばされた。マルタが、ピュシーと――マルタの言葉を借りればエイディと――付き合っているというニュースを、まさか新学期初日に聞くとは思っていなかった。
「まだ付き合ってないよ」マルタが慌てたように付け足した。「うーん……ほら、ソフィアとウィーズリーみたいな感じ?」
「私の場合、幼馴染との純愛よ」ソフィアがふざけたように笑いながら言った。
「あーあ、私だけ何もないじゃない。つまらないわ」
レティが不貞腐れたようにベッドに横になったので、マルタとソフィアは顔を見合わせた。
「寂しくなっちゃったのお?」
マルタがニヤニヤと笑いながら、うつ伏せになったレティにのしかかった。ソフィアも、自分のベッドに横になり、レクシーを抱っこしながら二人を眺める。レクシーは、ゆたんぽのように温かかった。
「友達優先しなさいよね」レティがぎろりと睨みつけた。寂しさ故の発言にしては、あまりにも迫力がある形相だったので、ソフィアはこくこくと何度も頷いた。
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