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▼ 夏休みの終わり5

 ソフィアにとって、夏休みとは長く続いて欲しいような、早く終わって欲しいような不思議なものだ。クリスマス休暇は短すぎるけれど、夏休みは長すぎる。半分でいいのにと呟けば、セドリックが「宿題終わらなくなるよ」と揶揄った。

 姿現しでいくので、ディゴリー家の朝は優雅だった。去年のウィーズリー家総出のドライブとは大違いだ。マグルが沢山いるキングスクロス駅にその方法はまずいんじゃないかと聞けば、駅の近くの路地裏を到着地点にすれば問題はないらしい。

 セドリックはおじさんに、ソフィアはおばさんに連れられて姿現わしをした。いい加減慣れても良いはずなのに、ちっとも慣れない。空気を胸一杯吸い込んで、涙目になった目を開けた。たったいま細いゴム管の中を無理やり通り抜けてきたような感じだった。ソフィアは朝食べたエッグマフィンが口から飛び出てくるかとしれないと思った。

 駅は相変わらず賑やかで、ソフィアとセドリックは話しながら駅の壁にも凭れ掛かり、さり気なく柱の向こうへと出た。ソフィアとしては、さり気なさを装うなんて無駄な努力としか思えない。イヌワシとグリーンイグアナを連れた女子学生なんてどう頑張っても目立つだろうとソフィアはため息を吐いた。

 今年、ダンブルドアが特例でグリーンイグアナとイヌワシを連れてくることを許可する旨の手紙がソフィア個人宛に届いていた。ガニメドまで連れていけるなんて、ソフィアにとって予想外だった。レクシーが呑気に ソフィアのトランクの上で寝こけているのをガニメドが羨ましそうに見ている。カゴの中は手狭なのだろう。

「ソフィア、大変だろう? ガニメドは僕が連れていくよ」セドリックが言った。

「いいの? 有難う」ソフィアは、セドリックの申し出を有難く受け入れた。

 コンパートメントに行くまでの間、ソフィアはガニメドをセドリックに預け、混み合うホームを縫うように歩いた。目立つ少女が手を振ってきた。マルタだ。夏休みにさらに日焼けたらしく、エキゾチックさに磨きがかかっている。

「Hola!」

 英語で言うところのHiという挨拶に、セドリックもソフィアもマルタと同じようにスペイン語で返した。流石に、三年間一緒に過ごして入れば少しばかりのスペイン語なら分かってくる。

「自動で翻訳してくれる魔法があれば良いのに」ソフィアが呟いた。

「翻訳コンニャクとかあればいいのにね!」マルタも頷く。

「こんにゃく?」ソフィアはマルタの言葉を復唱した。

 マルタは国が違うだけじゃなく、マグル生まれだ。時々こうして変な言葉を発する。何を言ってるのか分からず ソフィアとセドリックは顔を見合わせたが、マルタは説明する気もないらしい。コンパートメントはこっちだよと言って前を歩き出してしまった。

「よっ! 久しぶりだな」ギリアンが手を振った。

「遅かったわね」レティが本から視線を上げた。

 コンパートメントには、既に寛いだ様子のギリアンとレティがいた。

「そういえば、今年の闇の魔術に対する防衛術は最高よね」レティが珍しくにやにやと締まりのない笑みを浮かべていった。「ロックハートが先生なんだもの」

 レティの頬は、紅潮している。ギリアンは興味なさそうに、ソフィアの連れてきたレクシーを膝に乗せた。

「ロックハートって教科書の?」マルタが不思議そうに尋ねた。

「そうよ、勲三等マーリン勲章も受賞してるの。素晴らしい魔法使いだわ」レティは自慢げに頷いた。

「まさかロックハートのファンなの?」ソフィアは、固い声で聞いた。

「勘弁してくれよ……」ギリアンが呻いた。

「ええ」レティは少し恥ずかしそうに頷いた。

 ソフィアはレティの言葉に驚きで目を丸くした。レティがファンだったなんて初耳だった。


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