▼ 夏休みの終わり4
夕食は仔羊のローストだった。ポルチーニソースとの相性が最高で、ソフィアがまるで子供のように「美味しい! 美味しい!」と絶賛するものだから、おばさんは喜んで大量のおかわりをソフィアの皿に放り込んだ。
「セド、毎日こんな美味しいもの食べてたら、ホグワーツのご飯はまずいでしょ?」
「そんな事ないよ。友達とワイワイ食べるのも楽しいし」
テーブルを挟んで向かい側、 ソフィアがセドリックに問いかけると、セドリックは緩慢に首を振った。
「学校のセドはどうだ? 息子はモテるだろう」ディゴリーおじさんが前のめりになって聞いた。
「セドリックは影でプリンス・ハッフルパフなんて呼ばれてるのよ」ソフィアが面白そうに答えた。
セドリックは反論するのも疲れたのか、天を仰ぐだけだ。ディゴリーおばさんはセドリックの様子を見てクスクスと笑い、付け合わせの野菜を更に追加で入れていく。 ソフィアも入れられそうになったが、お腹がはち切れんばかりだったので謹んで遠慮した。
「プリンス・ハッフルパフか! そりゃあ良い! セドが七年生になる時にはプリンス・ホグワーツになってること間違いなしだ!」
「エイモス、ほどほどにしないと大好きな息子に嫌われちゃうわよ」
おじさんはワインを煽り、血色のいい顔がますます赤くなった。楽しそうに笑っている。おじさんはお酒弱いがセドリックも弱いのだろうか。ソフィアはちらりとセドリックのグラスを盗み見た。勿論、ワインなどではなくギリーウォーターが並々と注がれている。
「そういえばね、ソフィア」
「セド。いくら楽しいからってお行儀が悪いわよ」
セドリックが机から身を乗り出しソフィアに耳打ちしようとしたのだが、おばさんに窘められて大人しく席に身を戻した。
「なあに?」ソフィアが興味を引かれて聞き返した。
「後で言うよ」セドリックは首を振った。
ソフィアは肩をすくめて、ローストをナイフとフォークで一口サイズに切り取る作業に集中した。
デザートの洋梨まで食べ終えて、ソフィアがソファで寛いでいた。ディゴリーおじさんが珈琲を淹れてくれた。シャワーを浴びたセドリックが、パジャマに分厚いガウンを羽織って現れた。まだ湿り気のある髪の毛をタオルで拭いている。寮でも制服姿が多いセドリックの貴重な気の抜けた姿だ。
「そういえば、さっき何言おうとしてたの?」
「レティが教えてくれてたんだよ。今年のハロウィン・パーティーは骸骨舞踏団が余興をするんだって。後仮装パーティーも」
「素敵だわ! 何の仮装しようかしら」ソフィアは目を輝かせた。「……レティったら何で知ってたのかしら?」
「純血パーティーで知ったそうだよ。ほら、理事会の人も多くいるから」セドリックは牛乳を飲みながら言った。
「ああ、お嬢様だったわね」ソフィアは思い出したように言った。
純血パーティーで、辟易とした表情を浮かべるレティが容易に思い浮かび、 ソフィアとセドリックは二人揃って苦笑いを浮かべた。レティは、マグル生まれに対する差別を酷く嫌っているのだ。「マグル」という言葉に、ソフィアは目を輝かせた。
「とっておきの仮装、思いついたわ」ソフィアは手を合わせた。
「どんなの?」セドリックが聞いた。
「ふふふ、秘密よ」ソフィアはにこにこと笑った。
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