▼ 夏休みの終わり2
「他のクッキーが食べられなくなったら責任取ってくれる?」
「そうなったら、また遊びに来ればいいんだよ。母さんも父さんも、ソフィアのことが息子より大好きなんだ。いつでも大歓迎さ」セドリックは肩をすくめた。
「確かに、おじさんは私のことが大好きだわ。でも、私もよ! だってセドリックの魅力について語り合える貴重な話し相手だもの」
ソフィアは、おじさんと話すときはセドリックのことばかりだ。話題がそれしかないという理由もあった。
「クィディッチでハリーに負けたことは黙っていてあげる」ソフィアはニヤニヤと笑って、セドリックの反応を窺った。
「今年は勝つから、別に言ってもいいよ」セドリックは何気ない様子で宣言した。
リビングに戻ると、ディゴリーおじさんがアルバムを持ってソフィアを待ち構えていた。隣で、セドリックは深いため息をついた。おじさんがセドリックに嫌われない事が、ソフィアは少し不思議だった。
「セドは二歳の頃には子供用の箒を乗りこなしていた……わたしは思ったね、こりゃクィディッチの天才プレイヤーになるぞ!」
ディゴリーおじさんが、地面から少しだけ浮いた箒にまたがって円を描くように飛んでいるセドの写真をソフィアに見せながら興奮したように言った。おじさんの中では、まだまだセドリックがシーカーになったことの興奮が冷めないらしい。
「あら、セドの強いところは才能以上に努力を怠らない姿勢だと思うわ」ソフィアは言い返した。
「そうだとも、そうだとも。ソフィア、君はよくセドを分かってる! セドは謙虚で努力家なんだ」ディゴリーおじさんが上機嫌に同意した。
「まさしくハッフルパフよね」ソフィアは頷く。
おじさんは機嫌を良くしたようにソフィアの肩をバシバシと叩く。若干痛かったが、ソフィアは曖昧に笑ってごまかした。台所からクッキーを大皿に乗せて運んで来たセドリックが「良い加減にしてよ」と怒りと恥ずかしさやらがない交ぜになったような表情で声をあげた。その姿におじさんは楽しそうに笑う。
ソフィアは写真を覗き込む。至って普通の写真で、中で二歳のセドリックが楽しそうに笑っている。今と変わらない黒髪に、大きなクリクリとした灰色の瞳だ。箒に乗って楽しそうに笑っていた。
「ソフィア、それより見て欲しいものがあるんだ」
セドリックが、ソフィアから写真を取り上げた。セドリックは廊下を出て、綺麗な階段を登っていく。二階の踊り場の三番目の部屋が、セドリックの部屋だ。セドリックは扉をあけて、中にソフィアを招き入れた。
紺色のシーツと毛布があるベッドに木製のテーブル、あとはたくさんの本が入った本棚、床に敷かれたラグの上にはソフィアが座れるほど大きなクッションが二つ置いてある。
この部屋には何度か来たことがあったが、ソフィアは見慣れないものがベッドの上にあることに気が付いたら。一本の箒が置かれている。滑らかな箒の柄に、藁も一つに綺麗に纏まっていた。
「これって去年使ってた箒じゃないわよね?」
「うん、そうなんだ。父さんが買ってくれたんだよ。クィディッチのチームメンバーになれたお祝いだって」
「私、箒の種類はあんまり知らなくって……なんていうやつなの?」
「ツィガー九〇だよ、一昨年発売されたやつだ」ハリーのニンバス二〇〇〇を気にしてか、セドリックは付け加えた。「最新じゃないけどね」
ツィガー九〇を見る目はキラキラと輝いていて、ひどく嬉しそうだった。
「ライト・アンド・バーカー社のやつよね? セド、1年生の頃に欲しいって言ってたやつじゃない!」ソフィアは思い出したように言った。
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