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▼ 純血7

 記事にされる前に止めなくてはとソフィアはおろおろと周りを歩いたが、近寄れそうにない。よろめいたマルフォイ氏がソフィアに思いっきりぶつかった。ソフィアの腕から教科書たちが床に落ちていく。マルフォイ氏は謝りもせず、舌打ちだけすると、ソフィアの教科書を一冊武器として引っ掴んで喧嘩に戻っていった。

 ソフィアは助けを求めるように、すぐそばにいるドウェインを見上げたが、そこにドウェインの姿はなかった。娘を巻き込まれたことに激怒したのか、ドウェインまでも「泣き妖怪バンシーとのナウな休日」を片手に参戦してしまった。

 フレッドは「やっつけろ、パパ!」と応援するように叫んだ。おばさんは「アーサー、だめ!」と悲鳴をあげている。人垣がサーッと後ずさりし、弾みでまたまた本棚にぶつかった。本屋は混沌を極めていた。

「インカーセラス!」

 クレアが杖を振った。ロープが現れ、ドウェインをぐるぐる巻きにした。クレアは、なんとか喧嘩の参加者を一人減らすことに成功した。「店で喧嘩なんて、何考えてるのよ!」とクレアの珍しい怒鳴り声が聞こえた。

「おっさんたち、やめんかい」

 ハグリッドが本の山をかき分け、かき分けやってきた。あっという間にハグリッドはウィーズリー氏とマルフォイ氏を引き離した。

 マルフォイ氏は「毒キノコ百科」でぶたれた痕があった。目をギラギラと妖しく光らせ、変身術の古本をジニーの方へと突き出した。

「ほら、チビ――君の本だ――君の父親にしてみればこれが精一杯だろう」マルフォイ氏が捨て台詞を吐いた。

 ソフィアがしょんぼりと買ったばかりの教科書を拾っていると、フレッドが慌てたように隣に来て手伝った。

「さっきは気にしてなかったくせに」

 ソフィアはちくりと文句を言った。ソフィアがぶつかられた時、フレッドは助けに来るどころか野次を飛ばしていた。

「ごめんって」フレッドは大して反省した様子もなく、笑いながら謝った。

 店員は騒ぎを起こしたマルフォイやウィーズリー家に出て言って欲しく無さそうだったが、大男のハグリッドに何も言えない様子だった。一家は無事に店を出ることができた。

「子どもたちに、なんてよいお手本を見せてくれたものですこと……公衆の面前で取っ組み合いなんて……ギルデロイ・ロックハートがいったいどう思ったか……」ウィーズリー夫人は怒りに震えていた。

「あいつ、喜んでたぜ」フレッドが言った。「店を出る時あいつが言ってたこと、聞かなかったの? あの『日刊予言者新聞』のやつに、けんかのことを記事にしてくれないかって頼んでたよ。――なんでも、宣伝になるからって言ってたな」

 一行はしょんぼりして「漏れ鍋」の暖炉に向かった。ハリーとウィーズリー家は隠れ穴へ、グレンジャー家はマグルの街へ戻っていく。

「帰ろうか」

 俯くソフィアを慰めるように、ドウェインが頭を優しく撫でてくれる。フレッドとは違う、髪を撫で付けるような酷く優しいものだった。付き添い姿現わしをする中で、ソフィアは気持ち悪さに俯いた。この気持ち悪さは、先ほどの喧嘩が原因なのか、この移動のせいなのかソフィアには判別できなかった。

 血を裏切るもの、穢れた血、混血、純血……魔法界には、血筋に関する言葉が沢山溢れている。ソフィアの実の両親は、純血主義者からすれば「穢れた血」だ。それを知られていないから、あのギラギラしたマルフォイ氏の瞳がソフィアには向かない。そのことに安堵を感じてしまう事が後ろめたかった。

 クィレルや両親がソフィアの出生を頑なに誰にも言うなと言ったのは、こういう差別から守るためなのだろう。ホグワーツではあまり出会すことのない、マルフォイ氏の侮蔑の表情はソフィアの心を確かに抉った。


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