▼ 純血5
ギャンボル・アンド・ジェイプス悪戯専門店でフレッドは手持ちが少なくなったからと、「ドクター・フィリバスターの長々花火――火なしで火がつくヒヤヒヤ花火」を買いだめした。
「ジョージも買ってるんじゃない?」ソフィアが聞いた。
「そしたら倍量使うさ」
フレッドは気にしてないように言った。ソフィアは何に使うのか聞かなかった。下手したら悪戯の餌食になりかねない。
一時間後、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店に向かった。書店は人集りができていて、表で押し合いへし合いしながら、中に入ろうとしていた。やけに年齢の高い魔女が多い。その理由は、上階の窓に掛かった大きな横断幕に、デカデカと書かれていた。
サイン会 ギルでロイ・ロックハート
自伝「私はマジックだ」
本日午後十二時三十分-十六時三十分
「今年の教科書は、ロックハートの本のオンパレードだよな。『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生はロックハートのファンだぜ……きっと魔女だ」
フレッドが、ウィーズリーおばさんと同じくらいの年齢の魔女たちが押し合っている様子を眺めながら言った。
「あの中にいるかもしれないわね」ソフィアは同意した。
「ロックハートの本は高いのに、良い迷惑だよ」フレッドがため息をついた。
こうして今年の闇の魔術に対する防衛術の新しい先生の話をしていると、クィレルは本当にいなくなったんだと改めて現実が突き付けられたようでソフィアは少し悲しくなった。
「ソフィア?」
フレッドが人混みを押し返しながら、ソフィアの顔を覗き込んだ。ソフィアは首を振って、「泣き妖怪バンシーとのナウな休日」を引っ掴んで笑みを浮かべた。
「折角だから、私もサイン貰いたいわ」
ソフィアの言葉に、フレッドはうんざりしたようなため息をついた。
長い列は店の奥まで続き、そこでギルデロイ・ロックハートがサインをしていた。ウィーズリー夫妻とグレンジャー夫妻、ソフィアの両親が並んでいるところに、二人は合流した。クレアがソフィアの教科書を一揃い持っていたので、ソフィアは引き取った。
ウィーズリーおばさんが、チラチラとロックハートがいる方向を見ながら何度も髪を撫でつけていた。フレッドがオエッと言ったことには、幸いにも気付かれなかった。
ギルデロイ・ロックハートの姿がだんだん見えてきた。座っている机の周りには、自分自身の大きな写真がぐるりと貼られ、人垣に向かって写真がいっせいにウインクし、輝くような白い歯を見せびらかしていた。本物のロックハートは、瞳の色にぴったりの忘れな草色のローブを着ていた。波打つ髪に、魔法使いの三角帽を小粋な角度でかぶっている。
不思議なことに、なぜかハリーがロックハートの隣に並んで立っていた。ロックハートがハリーと握手しているポーズをカメラマンが写そうとして、ソフィアたちの頭上に厚い雲が漂うほどシャッターを切りまくり、ハリーは顔を赤くしていた。
ひととおり撮影が終わると、ロックハートは手でご静粛にという合図をした。
「なんと記念すべき瞬間でしょう! 私がここしばらく伏せていたことを発表するのに、これほどふさわしい瞬間はまたとありますまい!」ロックハートの白い歯が輝いた。「ハリー君が、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店に本日足を踏み入れた時、この若者は私の自伝を買うことだけを欲していたわけであります。それをいま、喜んで彼にプレゼントいたします。無料で」
ロックハートがウインクした。
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