▼ 純血2
ホールから続いていく扉を通り抜けると、そこは松明に照らされた細い石造りの通路だった。急な傾斜が下の方に続き、床に小さな線路がついている。小鬼が口笛を吹くと、小さなトロッコがこちらに向かって線路を上がってきた。
クネクネ曲がる迷路を、トロッコは行き先を知っているかのように勝手にビュンビュン走っていく。地下湖のそばを通ると、巨大な鍾乳石と石筍が天井と床からせり出していた。さらに下へ下へとトロッコは進み、やがて小さな扉の前で止まった。
扉の鍵を開けると、緑色の煙がモクモクと吹き出してきた。それが消えると、金貨の山が見えた。高く積まれた銀貨の山。そして小さなクヌート銅貨まである。
小さい頃、ソフィアが初めてこの金庫に連れてこられた時は、絵本の世界のような黄金の山に腰を抜かした。アスター家は辺鄙な場所(都会から離れた村の、そのまたさらに離れた場所)に静かに暮らしていたので、ここまで裕福だと知らなかったのだ。
シャフィク家やマルフォイ家には遠く及ばないが、アスター家は由緒正しい名家の一つだ。ドウェインは特に感動した様子もなく、手慣れたように皮袋に金貨を詰め込んだ。
「これくらいで良いだろう」
ソフィアたちは、もう一度猛烈なスピードで進むトロッコに乗車した。トロッコは右、右、左、そこから上へと道を猛然と進んでいき、ソフィアたちを地上へ導いた。グリンゴッツの外に出ると、刺すような陽射しに何度も瞬きしなくてはならなかった。 グリンゴッツの前の通りに、目立つ赤毛の集団がいた。ソフィアがその集団をじっと見つめていると、視線の先にいた赤毛の一人――フレッドだ――が手を振った。どうにも優れない表情だ。三人でウィーズリー家のもとへと歩いていく。
「まいったよ、ハリーが煙突飛行はじめてだったみたいで、どこかに飛んでっちゃったみたいだ」フレッドが困ったように言った。
「この近くだったらいいんだけどな」ジョージも心配そうに眉を下げている。
古くから魔法の世界で暮らしているソフィアたちにとっては煙突飛行は便利な移動手段だが、目を開けたら灰が入るとか、ぶつかるから肘は引っ込めなくてはいけないだとか、慣れない人には難しい移動手段かもしれない。
「おばさんとジニーは?」
「ママは半狂乱だよ、気が狂っちまったかと思った。今はジニーと――」
ソフィアが双子と話している横で、ウィーズリーおじさんはドウェイン、クレアと握手を交わしていた。
「やあ、久しぶりだねアーサー。うちの娘が迷惑をかけて申し訳ない」
ドウェインが思い出したようにジロリとソフィアを見た。ソフィアは、もう十分説教されたのにと肩を落とした。
「いいんだ、謝らなくてはいけないのは私の方だよ。うちの息子たちが巻き込んでしまって……ところで、君のつてに煙突飛行管理部門はなかったかね? ハリーが煙突飛行でどこかに飛んでしまって」
ウィーズリーおじさんは明るく話を切り替えた。(フレッドが、「無事に飛んだことの方に親父は大興奮さ」と耳元で囁いた。)
「ああ、それならアントンに声をかけてみようか。私が言いに行こよう。ハリーの居場所を突き止めれば良いんだね?」ドウェインが確認した。
「ハリー! ハリー! ここよ!」
遮るように女の子の高く通る声が聞こえた。人混みの奥、ハーマイオニーが手を振っていた。そばには縦に人の二倍、横には三倍は大きいだろうハグリッドとなぜか煤だらけでメガネまで壊したハリーがいる。
「ああ! ハリーが見つかったようだ!」おじさんが喜びの声をあげた。「お前たち、あそこだ」
おじさんと一緒にハリーの方へ急ぐ。
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