▼ 真夜中のドライブ5
家にゆっくりと、車体が近づいていく。ロンが窓から身を乗り出して中を覗いた。
「ハリーだ!」
ソフィアもロンの後ろから覗き込んだ。部屋の中は暗いが、誰かがベッドで寝ていることが分かった。ソフィアは更に顔を近づけた。ぐしゃぐしゃの黒髪、もしソフィアの記憶が間違っていなければハリー・ポッターと同じ髪型をしている。
ハリーはもぞもぞと動いていたが、ソフィアたちのいる窓を見て、慌てた様子で眼鏡をかけると、ポカンと口を開けた。
「ロン!」 ハリーは窓際に忍び寄り、鉄格子越しに話ができるように窓ガラスを上に押し上げた。
「いったいどうやって?――なんだい、これは?」
ハリーが車を見て驚愕で目を見開いた。
「ゴチャゴチャ言うなよ」ロンが言った。「僕たち君を家に連れていくつもりで来たんだ」
「だけど、魔法で僕を連れ出すことはできないだろ――」
「そんな必要ないよ。僕が誰と一緒に来たか、忘れちゃいませんか、だ」
ロンは運転席のほうを顎で指して、ニヤッと笑った。フレッドとジョージが、ハリーに得意げにウインクする。フレッドがロープの端をハリーに放った。
「それを鉄格子に巻きつけろ」 ジョージが言った。
「おじさんたちが目を覚ましたら、僕はおしまいだ」 ハリーが、ロープを鉄格子に堅く巻きつけながら言った。
「心配するな。下がって」フレッドがエンジンを吹かした。
車は停止したまま、エンジンの音が徐々に大きくなる。フレッドがさらにアクセルを踏み込んでいるらしい。突然、バキッという音と共に車が前へ進んだ。
ソフィアが窓から下を覗き込むと、鉄格子が地上すれすれでブラブラしているのが見えた。ソフィアは、ロンと一緒になんとかそれを車の中まで引っ張り上げた。息が荒くなる。
フレッドは車をバックさせて、できるだけハリーのいる窓際に近づけた。
「乗れよ」とロン。
「だけど、僕のホグワーツのもの……杖とか……箒とか……」 ハリーは外れた鉄格子に目を輝かせたが、すぐに俯いて言った。
「どこにあるんだよ?」
ロンが部屋をじろじろ見ながら言った。ハリーの部屋には、不思議なマグルの製品で溢れていたが、魔法界に関するものは何ひとつとして置いていなかった。
小さな空の椀が、扉に取り付けられた餌差し入れ口のそばに置かれている。ソフィアは、去年初めてハリーを見た時に痩せすぎて驚いたことを思い出した。こうして育てられたからだろうか。虐待だとソフィアは思った。
「階段下の物置に。鍵が掛かってるし、僕、この部屋から出られないし――」 ハリーの声はますます小さくなった。
「まかせとけ」ジョージが助手席から声をかけた。「ハリー、ちょっとどいてろよ」
フレッドとジョージがそーっと窓を乗り越えて、ハリーの部屋に入って行った。ジョージがソフィアの方を振り向く。
「ヘアピン、一本くれないか?」ジョージが言った。
「え、これ?」
ソフィアは不思議に思いながら、ピンを一本外して、窓越しにジョージに手渡した。なんでもない普通のヘアピンだ。ジョージはヘアピンを使って、扉に何か細工しているようだった。
「マグルの小技なんて、習うだけ時間のムダだってバカにする魔法使いが多いけど、知ってても損はないぜ。ちょっとトロいけどな」フレッドが言った。
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