▼ 真夜中のドライブ2
ソフィアは、紅茶について楽しそうに話していたクィレルを思い出した。胃に鈍い重苦しい感覚を覚えた。知らず知らずのうちに、この夏中ずっとソフィアを苦しめていた絶望感や寂寥感が、またしても押し寄せてきた。
クィレルについて考えるのはやめるの。
ソフィアは自分に言い聞かせた。これ以上クィレルに考えるのはよそう。こんな風に自分の思考を無理に止めようとすることを、ソフィアはこの夏何度も挑戦しては失敗している。
毎晩、ソフィアの夢にはクィレルが出てきた。夢の中で、クィレルはハリーにしがみつかれ、悲鳴を上げながら必死にハリーを振り解こうとしている。いつも、ソフィアはクィレルを見ているだけだった。クィレルは倒れ、立っているだけのソフィアを見上げてあえぎあえぎ言うのだ。どうして教えてくれなかったのか、助かったかもしれないのにと……
「ソフィア、大丈夫?」
かけられた声にソフィアはハッとした。ロンがソフィアの向かいに腰掛けている。ソフィアはなんでもないと言って笑みを浮かべたが、ロンは訝しげだ。
「そういえば、チャドリー・キャノンズ最近負け続きね」ソフィアは話を逸らした。
「トルネードーズが最近強いからって、やんなっちゃうなあ」ロンがため息をつく。
「この前、そっちが勝った時自慢してきたじゃない」ソフィアが眉を上げた。
「いつだっけ?」
ロンはニヤニヤと笑いながらとぼけた。絶対に覚えている様子に、ソフィアはむっとした。
「相変わらずソフィアちゃんは二つ下のロニー坊やにもすぐムキになるな」フレッドが言った。
「クィディッチ観戦の前に、箒に乗って浮かぶことくらい出来るようになってくれよ」ジョージが言った。
双子の声は、思いの外すぐ近くで聞こえた。ソフィアが振り返るように上を見上げれば、すぐ近くにフレッドの顔があった。思ったよりも近い距離に、ソフィアの顔に熱が集中した。慌てて顔をそらす。フレッドも同じだったようで、顔を赤くしながら少し後ずさった。
その様子を見て、ジョージが口に指を入れ吐くジェスチャーをしている。ロンも態とらしくため息をついた。幸運なことに、二人の様子にソフィアは気づかなかった。
「二階に行こうぜ」
フレッドが、ジョージとロンに目配せした。ソフィアは、悪巧みの予感に目を輝かせ頷くと、少し冷めた紅茶を一気に飲んで立ち上がった。
台所を抜け出し、狭い廊下を通って凸凹の階段にたどり着いた。階段はジグザグと上のほうに伸びていた。二つ三つ踊り場を過ぎて、ペンキの剥げかけたドアにたどり着いた。
「三日前にパパが、ハリーがマグルの前で魔法を使ったから、公式警告状を受けたって言ってたんだ」
部屋に着くと、フレッドが切り出した。
「それに、この夏休み中、手紙を一ダースぐらい出したのに、ハリーが僕の手紙に返事くれないんだ」ロンが付け加えた。「ハリーは家でマグルに酷い目に遭わされてたって言ってたし、何か起きてるんだよ」
「そこでだ、僕たちは考えた。今夜ハリーを迎えに行ってはどうだろうってね」ジョージが言った。
反応を待つ三人に、ソフィアは呆れてため息をつく。
「迎えにって、どうやって? マグルの家なら煙突飛行ネットワークには登録されてないし、此処からハリーの家まで箒で飛ぶわけにも行かないでしょう?」ソフィアは不可能だと首を振った。
「パパは今夜仕事なんだ。僕たちが車を飛ばして、ママが気づかないうちに車庫に戻そうって仕掛けさ」フレッドが窓から見える車庫を指差し、にやりと笑った。
「それに、今夜は曇り空だ」ジョージが自信満々に付け加えた。
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