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▼ 真夜中のドライブ1

 隠れ穴と書かれた少し傾いて立っている看板を前に、ノースリーブのワンピースにカーディガンを羽織ったソフィアは一人満面の笑みを浮かべた。少しだけいつもよりお洒落しているが、きっと気づく人はいないだろう。ソフィアはウィーズリー家の住む隠れ穴へとやってきていた。

 くねくねと曲がった石造りの家は、小人や屋根裏おばけがいる賑やかな家だ。それに加えて住んでいる住民も賑やかなメンツが揃っているのだから、ソフィアは隠れ穴が大好きだった。

 ソフィアにとって、もう一つの家のような場所だ。オッタリー・セント・キャッチポールという村から少し外れたところに隠れ穴はある。外で魔法が使えない未成年の魔法使いであるにも関わらず、こうしてソフィア一人で歩いて来れるほど、アスター家とウィーズリー家は近かった。

 玄関の戸の周りに錆び付いた大鍋があり、そのうちの小ぶりな一つは以前フレッドとジョージと三人で悪戯であけてしまった風穴がある。庭には呑気に寛いだ様子の鶏が数羽いて、酷く心地よさそうに見えた。生い茂った雑草の茂みが度々揺れるのは、きっと庭小人のせいだろう。

「ソフィア!」

 庭を横切って来る小柄な丸っこい女性にソフィアは瞳を輝かせた。ウィーズリー夫人だ。彼女は見た目を裏切らずとても家庭的で温かみのある女性で、ソフィアは昔から娘のように可愛がられていた。ソフィアが小さい頃に作ってプレゼントした花柄のエプロンをウィーズリーおばさんは身につけていた。

「会いたかったわ! 私が作ったエプロン着けてくれてるのね」

「勿論ですとも! フレッドとジョージなんて手紙すらくれたことが無いんですからね」

 ウィーズリーおばさんは、あの子達に最初から期待はしてないわと首を振って笑う。どうぞ入ってと目を輝かせるウィーズリーおばさんに半ば押されるようにソフィアは隠れ穴へ足を踏み入れた。

 台所は相変わらず酷く小さい。人ひとりやっと入れる大きさだ。魔法で全て事が片付くのだから、スペースはそもそも必要ないのかもしれない。もしウィーズリーおばさんが、クレアのように「マグル式」が好きだったら大変な事になっていた筈だ。

 リビングには、ひどく眠たそうなフレッドがパンにバターを塗っていた。まだパジャマ姿であるから、きっと寝坊したのだろう。髪の毛もあちこち跳ねている。

「フレッド!」

 ソフィアはワンピースの皺を念入りに伸ばしてから、フレッドに声をかけた。ドキドキと心臓が主張する。

「あれ、ソフィアじゃないか」

 ソフィアの期待に反して、フレッドは普段と変わらない様子だ。パンを一口齧りながら、驚いたように目を丸めている。

「冷たいわね」

 ソフィアはそっぽを向いた。誉めてくれるとまでは思っていなかったが、フレッドの反応があまりに薄い。

「指折りにしてこの日を待ってたよな、相棒」

 階段からジョージが降りて来て言った。

 ジョージも同じくパジャマ姿で、シャツのボタンを一つ掛け違えていた。寝癖は、フレッドよりもひどい。あちこち跳ねて、庭小人が荒らした芝生のようだ。ウィーズリーおばさんは「もう昼過ぎですよ、パジャマから着替えなさい!」と注意して二人を二階へ追いやった。

 ソフィアが椅子に腰掛けると、ウィーズリーおばさんが紅茶を淹れてくれた。アールグレイに蜂蜜が入っていて、カップを持つと蜂蜜のハーブの香りがふわりと立ちのぼる。


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