immature love | ナノ


▼ 二つの顔を持つ男1

 学期末試験が終了した。年々難しくなっていく試験内容にソフィアの頭はパンク寸前である。マルタは一足先にパンクしてしまったようで、夕食も食べて早々部屋のベッドへ直行していた。ソフィアもパジャマを着て、いつでも寝る準備は万端だ。ただ、暫くはこの心地よさに浸っていたくて、談話室の肘掛け椅子に腰掛けてゆらゆらと揺れる暖炉の炎を見つめた。

 闇の魔術に対する防衛術も、マグル学もまだ結果は出ていないが未だかつてない手応えを感じた。(その反動か知らないが、その他の科目は今までになく暗雲立ち込めていた。)結果が出たら、まず真っ先にクィレルに言おう。褒めて貰えるだろうか。うとうとと眠気が襲ってくる。ソフィアの思考は、深い暗闇に落ちて行った。

 ここは何処だろう。ソフィアは首を傾げた。談話室で眠ってしまったはずだったが、全く見覚えのない部屋に横たわっていた。石造の部屋で、炎に囲まれている。見慣れない部屋の中で、以前見た「みぞの鏡」が鎮座していた。

 鏡の近くに、見慣れた後ろ姿が見えた。ハリーとクィレルだ。だが、いつも彼が着けているターバンは床に落ちている。ターバンをかぶらないクィレルの頭は、奇妙なくらい小さかった。クィレルの頭の後ろにはもう一つの顔があった。これまで見たこともないほどの恐ろしい顔が。蝋のように白い顔、ギラギラと血走った目、鼻孔はヘビのような裂け目になっていた。

「捕まえろ!」その顔が叫んだ。

 クィレルは前向きになると、ハリーに向かって手を伸ばした。クィレルは誰かに操られているのだろうか。恐ろしく冷たい表情で、ソフィアには彼がクィレルと同一人物とは思えなかった。

 ハリーは悲鳴をあげ、力を振り絞ってもがいている。クィレルはすぐさまハリーの手を離した。クィレルは苦痛に体を丸め、自分の指を見ていた……見る見るうちに指に火ぶくれができた。

「捕まえろ! 捕まえろ!」

 また、クィレルの後頭部の声が叫んだ。クィレルが跳びかかり、ハリーの足をすくって引き倒し、ハリーの上にのしかかって両手をハリーの首にかけた。クィレルが激しい苦痛で唸り声をあげる。

 ソフィアはクィレルを止めたかったが、体が動かなかった。恐怖のせいなのかすら分からない。ただ、目の前の信じられない光景を呆然と見つめるしかなかった。

 クィレルは膝でハリーを地面に押さえつけてはいたが、ハリーの首から手を離し、自分の手のひらを見つめていた。真っ赤に焼けただれ、皮がベロリとむけた手が見えた。火傷した自分を助けてくれた時を思い出し、ソフィアはクィレルに駆け寄りたい衝動に駆られた。

 痛いに決まってる。ハリーも苦しそうだ。なんで、クィレルはハリーを捕まえようとして、ハリーはクィレルに火傷を負わせてるのだろう。

 ソフィアには何が起きているのか、事態が全く掴めなかった。

「あああアアァ!」

 ソフィアが呆然とし何もできない間に、クィレルが悲鳴を上げて転がるようにハリーから離れた。顔が焼けただれていた。

 ハリーが追い打ちをかけるようにクィレルの腕にしがみついた。クィレルは悲鳴を上げて、ハリーを振り解こうとしている。誰かがソフィアの名前を呼んだ。ソフィアがクィレルに駆け寄ろうとするが、動けない。何か見えない力に引っ張られるようだ。またソフィアの名前を呼ぶ声がする。ソフィアの視線の先、クィレルが倒れるのが見えた……。

「いやァァアアアア!」

 ソフィアは飛び起きた。ここは石造りの部屋でもなければ、鏡も置かれていない。クィレルもハリーもいるわけがない、ただの談話室だ。ギリアンが心配そうにソフィアを覗き込んでいた。


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