immature love | ナノ


▼ イースター休暇6

 ソフィアは前のめりに倒れそうになった。ギュッと誰かの腕がソフィアの両腕にまわり、支えてくれたお陰で、ソフィアは冷たい石畳ではなく誰かの胸元に顔を強かにぶつけるだけで済んだ。

「大丈夫か?」

 フレッドの声が頭上から聞こえる。ソフィアが顔を上げると、煤で顔を汚したフレッドがにっこりと笑っていた。

「俺のお陰で汚れずに済んだな」

 フレッドが得意げに言った。ソフィアは先ほど自分の姿が可愛いと言われたことを思い出して、顔に身体中の血が集まった。口を開けては閉じることを何回か繰り返して、ソフィアはこくんと首を縦に振った。フレッドが壊れたおもちゃのように不審な動きをするソフィアに笑う。

 いつもダイアゴン横丁に向かう時とは別の出入り口から表に出た。ロンドンのイースト・エンドは、ストラトフォードのオリンピック・パーク、ショーディッチのテックシティなど、ロンドンの中でも大きく発展を遂げた地域だ。ただ、路地裏を見れば必ず浮浪者がいたり、決して治安がいい街とは言えない。フレッドは、路地裏に蹲る人や色鮮やかなストリートアートを見てから、ソフィアの手を掴んだ。

「今日迷子になられたら、いよいよ最悪だ」

 フレッドとソフィアは手を繋いだまま、あちこちの店を見て回った。フレッドはすぐ何かに興味を引かれて歩き出してしまうものだから、ソフィアは迷子になるのはどっちだと胡乱気にフレッドを見た。

 マグルの店を見て回っていると、一際大きな建物にたどり着いた。動かないポスターが沢山貼られ、入り口で入場券を売っている。続々と人が中に入っていき、まるで吸い込まれているようだった。ソフィアはポケットから財布を取り出した。

「二人分ください」

 ソフィアはポンド紙幣を何枚か受付に渡した。ウィーズリー家は決して裕福とはいえない。このお出かけが、フレッドの負担になってほしくないとソフィアは思った。

「ソフィア、自分の分は自分で払えるよ」

 フレッドが少し傷ついたような顔をした。ソフィアは慌てて首を振った。

「パパがね、フレッドとデートするって言ったらこれで買いなさいってくれたの。その分、後でカフェに行けるでしょ……って……」

 ソフィアは今日のことをデートだと思っていたと自ら白状したと気付いた。徐々に固まるソフィアに、フレッドも不機嫌になったことも忘れて目を丸くしている。髪をぐしゃぐしゃと掻くと、フレッドはソフィアから目を逸らした。

「なら、この後のデートコースはカフェに行くで決まりだな」

 フレッドも、ソフィアと同じくらいぎこちない。恥ずかしそうにソフィアからチケットを受け取って、映画館の中へと歩いて行った。

 映画館の中は、ロビーがあり、さらにその奥に映画が上映される部屋がいくつか設置されていた。部屋は暗く、ぼんやりと中の様子が分かる程度の薄暗い光が照らしている。先頭には、壁一面を覆う巨大な白幕が下がっていて、そこに向かって沢山の椅子が並んでいた。

 ソフィアとフレッドは真ん中あたりの椅子を陣取った。椅子はふかふかで、ホグワーツの寮の肘掛け椅子にも負けていない座り心地の良さだ。ぐったりと体を沈めていると、部屋の中がいっそう暗くなり、白い幕に写真が映し出された。

 映った女性が動き出す。ソフィアは、以前クィレルにこれは写真の中の人物が動いているわけではないと教わったことを思い出した。何枚もの写真を連続で映し出しているだなんて、実際に見てもソフィアには信じられなかった。

 本当に、生きているかのように動きが滑らかだ。そっと隣の席を見ると、フレッドも驚いているようだった。食い入るように前方のスクリーンを見つめている。ソフィアは再び正面に視線を戻して映画に集中した。

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