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▼ イースター休暇5

 四月二日はあっという間にやってきた。出掛けるに相応しい、四月になってさえまだまだ寒く、天気も悪い日が続くイギリスとは思えない青空で、太陽が照り付けている。天気さえソフィアを祝福しているようだった。

 ソフィアは鏡をじっくりと上から下まで何度も見た。ソフィアの服装は、白色のケーブル編みのニットカーディガンとデニム、茶色のムートンブーツだ。くるりと回ってみて、おかしなところが無いか、テストの見直しよりも入念にチェックする。

 張り切りすぎてるようには見えないか、ソフィアは今度は鏡にすごく近寄って自分の顔をまじまじと見つめた。化粧はほとんどしていないが、マスカラと薄い桜色のリップを塗っている。髪は緩く編み込んでいた。ソフィアが自分の顔に夢中になっていると、玄関からベルの音がした。ソフィアは大慌てで玄関へ駆けていく。果たして、来たのはフレッドだけだろうか。

 期待しすぎちゃダメよ! 冷静に!

 ソフィアは自分に言い聞かせつつ、ゆっくりとドアノブを回した。玄関にはフレッドが一人で立っている。ソフィアは内心ガッツポーズしそうになった。フレッドはタートルネック一枚にデニムと薄着で、かわりにもこもこのダウンを上から着込んでいた。

 寒そうにポケットに手を突っ込んでいたフレッドは、ソフィアを見て片手を上げた。それから目を丸くする。

「何かいつもと違うな」

 フレッドがまじまじとソフィアを見つめた。顎に手を当てて、首を傾げている。

「えっ! 何か変かな?」ソフィアは、急に自分がボロ雑巾を着ているような惨めな気持ちになった。

「いや、すっげえ可愛い」

 フレッドは簡単に言ってのけると、固まったソフィアの脇を通り抜けて慣れたようにリビングへと進んで行った。慌てて振り返ったソフィアは、フレッドの耳が髪の毛と同じくらい真っ赤になっていることに気付いて、ますます顔に血が上った。

「あらあら、二人とも顔が真っ赤よ」

 リビングで煙突飛行ネットワークの準備をしていたクレアが、面白そうにソフィアとフレットを見た。楽しそうに笑っていて、ソフィアはこの数日間の張り切る姿を知られているだけに余計に恥ずかしくなった。

「お久しぶりです」

 フレッドは少し拗ねたように会釈した。

「ふふふ、おばさんが口出しちゃダメね、ごめんなさいね。ほら、煙突飛行粉の準備はできてるわ」

 クレアは楽しげに、小さな植木鉢を差し出した。中にはキラキラと光る煙突飛行粉が入っている。フレッドは煙突飛行粉を一掴み取って、暖炉の炎に入れた。炎の色がオレンジから瞬く間にエメラルド・グリーンへと変わっていく。音はゴーっと大きな音を立てたが、決して熱くなく、温かいそよ風のようだった。

「じゃあ先に行くよ」

 フレッドがソフィアに軽く手を振って、暖炉の中に入っていった。

「漏れ鍋!」

 フレッドが叫ぶと、あっという間に消えた。ソフィアも急いで煙突飛行粉を入れた。炎がソフィアの背ほど高くなり、一歩進んで暖炉に入ったソフィアの頬を撫でた。フレッドと同様に「漏れ鍋」とはっきり発音する。

 この感覚は、何度やっても慣れそうにない。まるでアリ地獄や渦潮に巻き込まれているような、ぐるぐると高速の渦を巻いて吸い込まれていくようだ。先ほどと比にならないくらいの轟音を立てる。ソフィアはしっかりと肘を引いて、目を瞑った。


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