▼ イースター休暇4
ソフィア
まさか手紙を送ると言ったその日に届くと思わないだろ! 驚いた?
俺が直接行く方が早いし確実な気もするけど、エロールじいさんの長年の経験と距離の短さをを信じて手紙を託すぜ。
パパが映画館が出来たって話してるのを聞いたんだ。
なんでも、写真が動くだけじゃなくて喋って演劇するんだって。
マグルってたまに俺らが思いつかない奇想天外なことするよな。
写真の奴らを働かせようなんて、普通思わないだろ?
それで、だ。四月二日に、ロンドンに出かけないか?
我が愛すべき田舎に映画館があるような街はないからな。この辺りで見れるものなんて、屋根裏おばけと庭小人、あとはヘンテコな「ザ・クィブラー」だけさ。
追伸
エロールじいさんは、二、三日休ませてあげてくれよ
帰り道でくたばっちゃうからな
フレッド
フレッドからの手紙を読みながら、ソフィアはエロールを優しく撫でた。エロールは気持ちよさそうにホーッと静かに鳴いて、目を閉じている。アスター家とウィーズリー家はいわゆるご近所さんだ。この距離の配達でこんなに疲弊するなんて、エロールも年を取った。昔はいつも元気に飛び回っていたのにと、ソフィアは寂しい気持ちになった。
「ママ! ネズミはまだあるっけ? エロールに食べさせてあげたいの」
ソフィアがキッチンに向かって声をあげると、自分の食糧が減ると感じ取ったのか、プロペーティアとガニメドが鋭く鳴いた。
ソフィアはエロールに水とねずみを与えてやり、すぐにリビングを出た。廊下を進み、二階へと上がる。二階の一番奥がソフィアの部屋だ。小さい頃に作った「ソフィア・アスター」と彫られた木製のドアプレートが掛かっている。
部屋の中は、木目の美しい机と椅子が一脚、それにベッドと洋ダンス、ドレッサーが置かれたシンプルな部屋だ。片付いた部屋の中で、片隅に積み上がったいたずらグッズが異彩を放っている。双子から毎年クリスマスに贈られては、使いどきがなく積み上がっていく噛みつきフリスビーとクソ爆弾を、がらくたの山の上にソフィアはちょこんと乗せた。
ソフィアは青色の手編みのセーターに着替えて、椅子に腰掛けた。引き出しから白い便箋とインク壺、羽根ペンを取り出す。羽根で顎を撫でながら、先ほどの手紙に対する返信を考え、ソフィアはすぐにインクにペン先を浸した。
フレッド
お誘いありがとう。映画館、行ってみたいわ!
私の家で待ち合わせはどうかしら?
煙突飛行ネットワークで漏れ鍋に行きましょう。
朝から準備してるから、いつでも来てちょうだいね。
ソフィア
手紙を丁寧に四隅を合わせて折りたたみ、ソフィアは部屋を出た。リビングにいたプロペーティアが、ソフィアに気付いて優雅に片足を差し出した。ガニメドは眠っていたので、有り難くお願いする。手紙を括り付けると、プロペーティアは優しくソフィアの指を甘噛みして、空いた窓から飛び立っていく。
ソフィアは、小さくなっていくミミズクの後ろ姿を見送りながら固まった。フレッドの手紙では、他に誰と行くのか一言も触れていなかった。もしかして二人きりだったりするのだろうかと思うと、ソフィアは急に落ち着かなくなった。リビングをあちこち歩き回るソフィアを、クレアとドウェインが不思議そうに見つめていた。
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