▼ イースター休暇3
「そういえば、髪の毛を黒く戻したいんだけど、どうかな?」
ソフィアの発言に、クレアとドウェインはぴたりと固まった。血が繋がっていないことを公にはしないとしても、髪の毛を染めてまで無理に隠す必要はないんじゃないかとソフィアは思っていた。みぞの鏡の一件からソフィアが考えていた事だったが、両親の反応に焦ったように言葉をつづけた。
「やっぱり、やめた方がいい? 仲良い先生にもね、血の繋がった両親が他にいることは誰にも言うなって言われたの」
ソフィアは自分の髪を指先に巻き付けて、毛先を眺めながら言った。ソフィアの発言に、ドウェインが今度こそ紅茶でむせた。
「ソフィア、僕たちとの約束を忘れたのか?」
ドウェインが静かに聞いた。約束を軽く考えていたことは間違いないので、破ったことを急に後ろめたく感じる。ここまで真剣な反応は予想していなかったので、ソフィアは後ろめたさに目を逸らした。
「パパとママの実の子供じゃないことは誰にも言っちゃいけない、でしょ? 他には誰にも言ってないのよ。先生ならマグル生まれだろうと差別しないと思ったの。それに、先生は私のこと可愛がってくれてるし……」
ソフィアが言い訳がましく話しているところで、ピタリと言葉を止めた。クィレルがマグル生まれだろうと差別しないと思って言ったのは間違いないが、実際にマッキノンがマグルの血筋だと言ったわけではない。名字を聞いただけで分かるものなのだろうか。
「ソフィア、その先生って誰なのかしら?」
クレアの質問に、ソフィアは思考を中断した。
「クィレル先生よ、闇の魔術に対する防衛術の先生なの」
「先生は、他の人に言っちゃダメって注意してくれたんだね?」
ドウェインが確認するように聞いた。
「ええ」
ソフィアは自分が重大な過ちを犯したのかと不安になった。確かに魔法界に蔓延るマグル差別の問題はあるが、大袈裟すぎるくらいに二人が真剣な顔をしている。マグル生まれだと仮に広まったとしても、スリザリンの一部の連中に嫌味を言われるくらいだろう。ソフィアは首を傾げた。
「先生のおっしゃる通り、私たちも言わない方がいいと思うの。成人した時、髪色を戻すか決めるのはどうかしら」
「ごめんね、ソフィア。私たちの心配も汲んでおくれ」
クレアとドウェインは、話を終わらせるように締め括った。ソフィアは、会話の居心地の悪さにすぐ頷いた。何故こんなにもソフィアがマッキノンの娘であることを皆が隠そうとするのか、ソフィアにはちっとも理解できない。マルタもハーマイオニーも、マグル生まれなことを負い目に感じてるようにはとうてい見えず、いつだって堂々としている。そう思うと、ソフィアはなんとも言えない居心地の悪さに襲われた。
ドンと強い音が窓からした。ボロボロ毛の抜けた灰色の毛ばたきが窓にぶつかりズルズルと落ちていく姿が見えた。
「エロール!」
ウィーズリー家のよぼよぼのふくろうだった。ソフィアは慌てて窓を開けて、力無く横たわっているエロールを抱き上げる。エロールの足には手紙が括り付けられていた。ソフィアは手紙を外す。恐らくフレッドからだ。エロールを止まり木に止まらせようとしたが、力が入らないのか止まろうとしてもすぐ落ちそうになる。ガニメドさえ憐れみの視線を向けている。
「悲劇的だわ」ソフィアはそっと独りごちながら、エロールを机の上にそっと乗せてあげた。
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