immature love | ナノ


▼ イースター休暇2

 家の中にはソフィアの好きなもので溢れている。沢山の皿や植物、絵画……様々なものが飾り付けられた壁に、轟々と炎が燃える暖炉、異国のものだと言う手織りのカーペット、すべてソフィアのお気に入りだった。ソファが置かれた位置には昔ソフィアが零してしまったココアの染みがあるが、それはアスター家の秘密だ。

 窓枠には、すでにガニメドが停まっていて、ソフィアをこの上なく安心させた。ガニメドの隣には、プロペーティア(ドウェインのワシミミズクだ。)がいて、ガニメドを不審げに見ている。ドウェインが、なだめるようにふくろうフーズを与えてやった。

 台所へ行き、お湯を沸かし紅茶を三人分淹れる。隣でクレアが鼻歌を歌いながら冷蔵庫からホールケーキを出し、三人分カットしていた。昔、杖を使わないのか聞いたことがあったが、こういうのは「マグル式」の方が良いらしい。

 マグルのバンドが好きだったり、純血の一族出身なのにドウェインもクレアも変わっているところがあった。ウィーズリーおじさんと仲良くなった理由も恐らくこれだろう。ガニメドに餌をやり終えたドウェインが台所に顔を出した。

「この子の名前は何にしたんだ?」

「ガニメドよ」

「随分と皮肉の効いた……」

 ドウェインが口籠るので、ソフィアは首を傾げた。

「わし座って、ガニメドっていう人を指してるんでしょう? そこから取ったんだけど」

 ソフィアは天文学の授業を思い出しながら言った。ドウェインとクレアは顔を見合わせ、笑いながら口を開く。

「違うわ、ソフィア。わし座はガニメドを誘拐するときのゼウスの姿よ」

「だから、誘拐犯の象徴に被害者の名前をつけたことになるわけだ」

 クレアとドウェインの言葉に、ソフィアは口を手で覆った。したり顔でつけた名前だったが、そもそもソフィアの認識が誤っていたなんて想定外だった。ガニメドは、慌てるソフィアをよそに呑気に水を飲んでいる。

「いい名前なんじゃないか? ガニメド自身も気に入ってる、それが一番だろう」

「……名前を変えるのは今からでも遅くないかしら」

 ドウェインの言葉に、ソフィアは苦々しく言った。

「ガニメドが混乱しちゃうから、諦めなさい」クレアは静かに首を振った。「それよりも、紅茶とケーキをいただきましょう。せっかくの紅茶が冷めちゃうじゃない」

 ソフィアは、己の命名センスと知識不足を呪いながら、のろのろとケーキを口に運んだ。イチゴと生クリームだけのシンプルなショートケーキは、甘いのに口の中には甘さが残り続けることもない。いくらでも食べれそうだとソフィアは思った。

「ところで、学校はどうだい? 友達はみんな元気かな?」

 落ち込んだソフィアを励ますように、ドウェインが慌てた様子で学校生活の話を根掘り葉掘り聞きたがった。

「元気よ、フレッドとジョージなんて元気すぎて罰則も沢山食らってたわ」

 ソフィアはくすくすと笑った。双子はこの三年間だけで、罰則を全員の先生から受けたことがあるのではないだろうかと思えた。彼らはそれくらい落ち着きも、校則を破ることへの躊躇いも持ち合わせていない。

 手元のティーカップを見る。春摘みのダージリンは、シャンパンゴールドの明るさで、もっと蒸らした方が良かったのではないかと不安になる。色に似合わず、優しく深みのある味わいだった。ダージリンはつい先日、振舞って貰ったばかりだ。ダージリンは紅茶のシャンパンだと言って微笑んだクィレルを思い出した。


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