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▼ イースター休暇1

 イースター休暇は、三月末から四月の初旬にかけてある。六月に学期末試験が控えているので、心の底から楽しめる最後の休暇だ。勿論、試験に真面目に取り組む人にとっては最初の追い込み期間とも言える。ソフィアは、やる気はないものの、正常な焦りは持ち合わせていたので、トランクに教科書をできる限り詰め込んだ。

 ガニメドも一緒に連れて帰りたかったが、許可されていないペットを堂々と籠に入れて列車に乗るわけにもいかなった。(ソフィアは、校則を破ることに躊躇いは持ち合わせてはいないものの、ウィーズリー家の双子と違いバレることには臆病な小心者だった。)朝から不機嫌に指を噛むガニメドに、ホグワーツから飛んで帰るよう沢山のエサと引き換えに納得して貰わなくてはいけなかった。

 重いトランクをカートに乗せて運ぶのは気が重いが、ガニメドがカゴの中で騒がないだけマシなのかもしれないとソフィアは思った。同じく重そうなカートを押しているレティはソフィアの隣に並んで歩いた。

「ガニメド、自分の家がどこか分かるの?」

「どこにいるか分からない相手に手紙を届けられるのよ? 大丈夫よ……多分」

 レティの質問に、ソフィアは曖昧に答えた。ガニメドは自信満々に飛び去ったので疑問に感じていなかったが、ソフィアはガニメドに、家の場所を丁寧に教えたわけではなく、先に家に帰っててと伝えたのだ。

「ふふ、私の家に来てたら貰ってあげるう」

 マルタがくすくすと楽しそうに笑いながら言った。彼女の荷物は傍目から見ても明らかに少ない。寮でレティとソフィアがいくら忠告しても、彼女は頑なに宿題に必要な教科書しか持ち帰ろうとはしなかった。

「イングランド西部地方、デヴォン、オッタリー・セント・キャッチポールに行くのよ、とでも言ったほうが良かったかしら」

 ソフィアは今更頭を抱えた。

「それは俺らの住所じゃないか!」

 後ろから、ニヤニヤと楽しそうに笑ってるジョージが顔を出した。

「ソフィア、休み中どっかに遊びに行こうぜ」

 フレッドが言った。

「いいわね! 折角だから街の方にも行ってみない?」

「あのクソ田舎から行ける街なんてあったっけ」

 フレッドはふざけたように笑うと、また手紙を送ると言って足早にソフィアたちを追い抜いた。追いかけるようにキングズクロス駅の改札を出ると、ブロンドの髪を持つ大人が二人立っている。ソフィアの両親だ。ソフィアは久しぶりに見る両親に、思わずカートを押したままドタバタと走って抱きついた。ドウェインもクレアも嬉しそうにソフィアを抱きしめる。

「おかえりなさい」

 ずっと聞きたかった、優しい声だ。

「ただいま」

 ソフィアはクレアの背中に両腕を回してギューっと抱きしめた。クレアが頭を撫でてくれる。ドウェインが「後で私もハグさせておくれよ」と茶目っ気たっぷりに言った。
「いくつになっても甘えん坊さんね」クレアがくすくす笑う。「姿あらわしするからこのまま捕まっててよ」

 ソフィアは顔をあげないままコクコクと頭を上下に振って頷いた。振り落とされないようにと、まわした腕に力を込める。瞼に力を入れて、目を閉じた。途端にぎゅるんと体の内側から引っ張られる感覚と、高速で回転してような気持ち悪さがソフィアを襲った。

 足元のおぼつかなさが収まって、目を開ければ、キングズクロス駅から一転人気のない森の中にソフィアたちはいた。ひっそりと佇む煉瓦造りの家は、一部蔦が壁を覆っている。ソフィアのトランクを持ってくれたドウェインが、一足先に玄関の扉を開けた。


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