immature love | ナノ


▼ 密かに慕う者3

「この、グリンデローに指で締められた時の対処法が本を読んでもピンと来なくて……指を掴むんですか?」

 ソフィアは教科書のあるページを指してクィレルに見せた。薄緑色の肌をしていて、緑色の歯をもち、頭には小さな角がある。指が非常に長い。

「グ、グリンデローの指は、強力ですが、が、外的に加えられる力に、と、とても弱いんです」

 クィレルは自分の指をもう片方の手で握って折る真似をした。

「し、しなびたミイラの手ように、つ、掴めば、女性の力でも簡単に折れます。折る前に、グ、グリンデローはお、怯えて逃げ出すでしょうけど。た、ただ、それでも締め付けてくる時は、こ、こんな風に折ればいい」

 ソフィアがメモしていると、クィレルは紅茶を飲んで静かに書き終わるのを待っている。ソフィアは、以前森で会った生き物を思い出して、顔を上げた。

「先生、ユニコーンの血を飲むと生きながらの死の命を生きることになるって聞いたんですけど、ご存知ですか? 闇の魔術の一種でしょうか?」

 クィレルの目元の痙攣が強くなった。

「ざ、残念ながら、ま、魔法生物については、私は詳しくない。ケトルバーン先生に、き、聞いて貰えますか」

 クィレルは、早口に捲し立てると、紅茶のおかわりを入れると言って立ち上がった。杖を振ればいいだけのことにわざわざ動くだなんて、話を切り上げたいという意味に他ならないだろう。どこか目は泳いでいて、落ち着きがない。答えられない質問に自尊心を傷つけられてしまったのだろうかとソフィアは思った。何が彼の琴線に触れたのか思案しながら、ソフィアは頷いた。ソフィアとクィレルは、会話をやめて静かに紅茶を飲んだ。

 クィレルの部屋でくつろぐことがあるなんて!

 ソフィアは信じられないような気持で紅茶を啜った。初めてクィレルに質問をしに行ったとき、半ば追い出すような形で、部屋を早々に出ていくように促されたのが嘘のようだ。クィレルがこうして構う生徒は自分以外に見たことがないとソフィアは思った。なんだか特別扱いのようで、くすぐったい。先生に可愛がられているセドリックやフレッドとジョージと違って(後者は憎まれている場合もある。)、ソフィアは親しい先生もいなかったから余計に嬉しかった。

「そういえばね、先生」ソフィアは話を切り出した。「私って占いの才能があるかもしれないんです」

 クィレルは何も言わず目をパチクリと瞬きした。

「占いの……?」

 唐突すぎたかとソフィアは焦ったが、クィレルはポカンとした表情を浮かべたまま首を傾げた。戸惑いが大きいのか、いつものような吃音もない。クィレルはティーカップを机に置いて、膝の上に手を置いた。クィレルが話を聞く姿勢になり、雑談にも付き合ってくれると暗に言ってくれたことが、とても嬉しく感じた。

「一回だけ、夢に見たことが現実に起きたんです」

 ソフィアは内緒話のように声を小さくして言った。これまで誰にも言ったことがない。見た予知夢が、ハッフルパフがグリフィンドールに大敗北を喫するという内容だったので、ハッフルパフの友達にもウィーズリー家の双子にも話していなかった。それでも、自分の中にあるかもしれない才能のかけらに、ソフィアは自惚れるような気持ちだった。

「まだ確証はないけど、私のお父さんも同じ能力があったみたい」

「あ、アスターさんが? や、闇祓いでしたよね。占いの、さ、才能があったなんて、し、知らなかったです」

 クィレルは驚いたようだった。


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