immature love | ナノ


▼ 密かに慕う者2

「カードにはなんて書いてあったの?」

 リーアンが興奮で頬を赤く染め身を乗り出して聞いた。カードを読んだソフィアが顔中の血が沸騰するのも時間の問題だった。他の女子生徒も興味津々に此方を見ている。セドリックとギリアンは此方に注目していないことが救いだった。カードには、丁寧な筆跡で短く言葉が綴られていた。



 ソフィアへ

 私のバレンタインになってください。

 あなたを密かに慕う者より

 
 こんな言葉、誰がソフィアに送ったと言うのだろうか。キョロキョロと辺りを見渡しても、ソフィアと目があう人は誰もいない。何が書いてあったのか教えてと強請るリーアンに、ソフィアはただ首を振った。好奇の視線を振り切って、ソフィアはレティとマルタの手を取って歩き出す。セドリックとギリアンが驚いたように目を丸めていたが、ソフィアには気にする余裕はなかった。もう朝食どころの騒ぎではない。

「相手が誰だか、検討ついてるんじゃないの」レティが楽しそうに笑う。「少なくとも貴方の曲の趣味を知ってる相手よね」

 ソフィアは真っ赤な顔のまま何も言えず、口をパクパクと開閉させた。メッセージカードを折り畳めば、音楽がやむ。聞き慣れたビートルズが聞こえなくなった。ソフィアは、こんな恋愛小説のような告白を受けて、冷静でいられるような度胸は持ち合わせてはいなかった。マルタと違って告白されている慣れているわけでもない。慌ててしまうのも当然だ。

「誰だかわからないわ……」

 胸に宿る小さな期待を打ち消すように首を振る。馬鹿げてるとわかっていても、小さな可能性に期待してしまいそうだとソフィアは首を振った。

 ソフィアは大広間を出ると、レティ達と別れて一人クィレルの部屋へと向かった。闇の魔術に対する防衛術について質問する時間をもらう約束だった。クィレルは最近ますます病的に青白くなっていて、誰が見ても憔悴しきっていることが一目瞭然だった。申し訳なさで約束を辞退しようとしたが、クィレルに問題ないと強く言われた。(クィレルの強く言うは、恐らくマクゴナガルが子守唄を歌っている時の方が圧があると思えそうなくらい、ちっとも力が入っていない。)

「よ、よければ、どうぞ。バ、バレンタインだからね」

 クィレルは杖を振るとソフィアの前にチョコレートカップケーキを出した。空だったカップから、いつの間にか暖かな湯気が出ている。

 クィレルの部屋は、意外なことに教室のようなニンニクの匂いはしなかった。代わりに、中東のお香のような、仄かにスパイシーな香りが漂っている。ペルシャ絨毯の上には、存在感のある重厚な木のテーブル。ソファは無く、かわりに椅子が二脚置いてある。

 グリーンイグアナのレクシーが暖炉の前で微睡んでいる。虫が頭のまわりを飛んでいても、気づく様子すらない。テーブルを挟んで向かいの椅子に座ったクィレルはぎこちなく笑った。お味はいかがかなという質問に、美味しいですと返す。

「よ、よかった。こ、これはラジャという、い、インドで栽培されたものです」

「普段アールグレイばかり飲んでるんですけど、ダージリンもいいですね」

 ソフィアはもう一度紅茶の香りを吸い込んで、にっこりと笑った。

「紅茶のシャンパンですからね。ち、チョコレートに、合う」

 クィレルが口元に薄い笑みを浮かべて言った。ソフィアは、クィレルが紅茶や食べ物に拘ることを意外に思いながら、カップケーキを一口齧った。シャンパンを飲んだことがないソフィアには、紅茶のシャンパンという例えがよく分からなかったが、黄金色の紅茶はとても美しい。ケーキの甘さが、紅茶にとても合った。ティーカップを脇に置いて、鞄から教科書を取り出す。


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