immature love | ナノ


▼ 密かに慕う者1

 ある寒い二月の休日の朝、ホグワーツの生徒はいつもより浮足立っていた。テストが近づいていようが関係ない。今日は二月十四日、所謂バレンタイン・デーだ。一昨年、昨年とソフィアが貰ったカードは残念ながら無い。それでも、ソフィアはソワソワして、いつもより多い配達に来たフクロウの群れを見つめた。貰えるわけがないと思っていても、毎年どうしても期待してしまう。

 日刊預言者新聞や宅配便を抱えた梟の中に、カードや手紙を持った梟が多く紛れている。そのどれもが、女子生徒の前にスィーッと舞い降りると、誇らしげに届け物を差し出していた。女子生徒は楽しげな悲鳴をあげて、近くの生徒と顔を見合わせながらいそいそと封を切っている。今年はマルタにも手紙が届いていて、彼女は少し照れ臭そうに中身を確認していた。

「誰からだった?」レティが聞いた。

 今年も、残念ながらソフィアに届け物はなかった。がっかりしたことを出さないように、ソフィアはフレークを口いっぱいに頬張った。もぐもぐと口を動かしながらマルタを見る。

「エイドリアン・ピュシー」

 マルタのセリフに、レティとソフィアはあんぐりと口を開けた。ソフィアの口からぼろりと咀嚼途中のフレークが牛乳皿に戻っていき、ギリアンが「お前、それはさすがに汚すぎ」と注意した。驚いても仕方ないとソフィアは思った。

 エイドリアン・ピュシーは、スリザリンの上級生で、クィディッチのチェイサーだった。スリザリン生の中で人気がある。(スリザリン内だけの人気という点が重要だとソフィアは考えていた。)

 すぐ隣のテーブルで、男子が突然盛り上がった。中心にはピュシーがいて、青白い肌を赤くしていた。周りに揶揄われて恥ずかしそうではあったが、満更でもなさそうにマルタの様子を盗み見ていた。自分に自信がある人の態度だとソフィアは思った。

「ピュシーと付き合ってたの?」

 ソフィアはチラチラとピュシーたちの集団を気にしながら聞いた。

「ううん、ちょっと廊下で話したことあるだけだよお。でも、カッコいいと思ってたから嬉しいかも」

 マルタはバレンタインカードを手に持ったまま、にっこりと笑った。明らかに送り主を交えた男子グループが囃し立てているのに対し、マルタは全く動じていないようだった。後半の台詞は、いつもと比べて声のボリュームが若干大きい。聞かせようとしているのではないかと、ソフィアは思った。確かに顔はかっこいいと頷くレティを見て、ギリアンがつまらなそうに食事を再開した。

 一羽、遅れて梟が入って来る。どこへ行くのだろうと眺めていれば、真っ直ぐに自分の元へ飛んで来るのだからソフィアは驚いた。だって、その梟は真っ赤なバラを一輪を嘴にくわえている。明らかにバレンタインの贈り物だった。

 舞い降りた梟がソフィアのトーストの耳を美味しそうに齧り、再び飛び去る。身動き一つ取れずに、ソフィアは固まったまま梟を見送った。レティとマルタ以外にもハッフルパフの女子に囲まれる。リーアンに加え、ハンナとか他の一年生の女子まで興味津々だ。赤いバラを贈ってくれるなんて素敵な男子、誰も心当たりがないのだろう。全員送り主が誰か聞きたい様子だった。

 赤い薔薇は何か魔法をかけられているのか、淡いキラキラとした光を放っている。ソフィアがそっと触れた瞬間、それは赤い紙のメッセージカードへ変わった。ソフィアの好きなビートルズの曲がオルゴールで流れ始める。マルタが楽しそうに、キャアと小さく悲鳴を上げた。

「すごくロマンチック」

 マルタがうっとりと言った。マルタの関心が自分のカードから逸れたことに、ピュシーが不満げに顔を顰めている姿が見えた。


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