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▼ 英雄の転落3

「君は様々なものを見るでしょう。同じ目をしている」

 ソフィアには、フィレンツェが何を言っているのか理解できなかった。さっきから何一つ会話が成り立たない。セドリックをちらりと見たが、不思議そうに首をかしげていて、ソフィアと同様に何も理解していないようだった。

「もし君が未来を読み解けたら、何をしますか」

「悲しい未来なら変えます」

 ソフィアは自分が思って居たよりもしっかりとした声が出て自分でも驚いた。未来を変えるなんて出来るのか分からない。なにより、あの時ハッフルパフ対グリフィンドール戦のように予知夢を再び見ることがあるのかすらソフィアには見当もつかなかった。だが、変えられない未来だったら視えたところで仕方ない。もし次に嫌な未来が見えた時は変えてみせるとソフィアは心のうちに誓った。

「彼も同じような傲慢なことを言っていた」

 フィレンツェは面白そうに目を細めソフィアに言った。傲慢と述べたが、決して嫌味な口調ではなかった。純粋に感心しているような口ぶりだ。

「彼って、誰ですか」

 フィレンツェが言う『彼』が誰なのか、ヒントを求めるようにソフィアはフィレンツェを見たが、答える気はなさそうだった。

「ユニコーンの血が何に使われるか知っていますか?」

 フィレンツェがもう一度ユニコーンを見て、静かに言った。ソフィアの質問は、少しも気にとめていないようだった。

「延命だけど……代償が大きすぎて使う人なんていないです。呪われてしまう、生きながらえる死だなんて、誰が――」セドリックが答えた。「もし賢者の石の在り方を知っている人だったらあり得るかも……でも……」

「力を取り戻すために長い間待っていたのが誰か、思い浮かばないですか?」

 フィレンツェの問いかけに、ソフィアとセドリックは不安げに顔を見合わせた。ソフィアには、誰だか見当もつかなかった。

「その人が、さっき私たちが見た人なんですか?」

「おや、君たちはあのユニコーンを殺した人物を見たんですか」フィレンツェが意外そうに言った。「だとしたら、殺されずに済んだのは本当に幸運なことです」

「誰かを殺すような……そんな魔法使いがホグワーツの敷地にいるってことですか?」ソフィアはぶるりと体を震わせた。

「これ以上、この森に足を踏み入れないほうがいいですよ」

 フィレンツェは、質問には答えない代わりにゆっくりと踵を返した。森の奥深くへ緩やかに走り去っていく。その後ろ姿を、残されたソフィアとセドリックは呆然と見送った。

「早くこの森を出よう」

 セドリックが張り詰めた声で静かに言った。森の深くまで来ていない筈だが、ソフィアも頷いた。ユニコーンを埋葬してあげたかったが、これ以上この森の中に留まるのは恐ろしくて、ソフィア達は足早に城へ急いだ。

「やっぱり、ハリーが言っていたことは本当だったんだ! 間違いなく、賢者の石は城にあるんだ。でも、石を狙ってるのはもっと恐ろしい闇の魔法使いだ」

 森を出てから、初めてセドリックが口を開いた。声に力がこもり、酷く深刻な様子だ。
「でも、誰が? そんな恐ろしい魔法使い、名前を呼んではいけないあの人くらいしか……」

 ソフィアは言葉を止めた。セドリックは何も言わない。ただ、彼の顔はいつもより青白く見える。

「父さんが、例のあの人は死んでない筈だって言ってた。あそこまで闇の魔術に精通した人間が、死ぬはずがないって」

 セドリックは、ソフィアの言葉を肯定する代わりに静かに言った。

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