▼ 新学期6
「ハリー、さっきの試合は有難う。自己紹介がまだだったね。僕はセドリック・ディゴリー、ハッフルパフの三年生だ」
誰もしゃべらないまま三人は校庭に戻ったが、箒から降りたところでセドリックがハリーに握手を求めた。先ほど怪しい現場を目撃したばかりというのに、試合終了直後のような爽やかな笑みにハリーは拍子抜けしたようだ。おずおずとハリーも握り返す。
「僕はハリー・ポッター。よろしく、セドリック」
「よろしく、ハリー。次は負けないよ」セドリックはほほ笑んだ。「でも、一人で禁じられた森に行くなんて感心しないな。それも先生を尾行して」
セドリックはハリーを咎めるように、顔を若干しかめた。今回尾行していた相手が先生だったから万が一何があっても大丈夫だろうが、仮に闇の魔法使いだったら危ないだろう。ソフィアもセドリックの言葉に深くうなずいた。
「そうよ、ハリー。今回はスネイプとクィレルだったから良かったけど、もし怖い人だったら本当に危ないわ」
セドリックとソフィアの言葉に、ハリーは何を言うか迷っていたようだが、暫くして堰を切ったように話し始めた。
「スネイプは賢者の石を盗もうとしてるんだ。僕知ってるんだ、スネイプが野獣って言ってた――フラッフィーっていう三頭犬と……多分クィレルに、ダンブルドアは賢者の石を守らせてるんだよ」
「学校に賢者の石があるっていうの?」
「ダンブルドアとフラメルは友達だから、フラメルは石が狙われてると知ってダンブルドアに保管してって頼んだんだ!」
ソフィアには、ハリーの話は無理があるように思えた。ダンブルドアが何を考えているのかは分からないが、もし大事な友人からの預かり物を守るなら今年ホグワーツに哀れみを誘う姿で戻ってきたクィレルよりも、マクゴナガルやフリットウィック、それこそスネイプに頼むはずだ。
ただ、一概に違うとも言えない。実際にスネイプとクィレルの会話の中で『賢者の石』というワードが出ていたのだから。本当に賢者の石が関わっているとして、スネイプが狙う理由はなんだろう?
「ホグワーツで何か起こってるのは間違いなさそうだな。今年いっぱい四階の右側の廊下に生徒を近寄らせないようにしていることも関係あるかも」
セドリックは手を顎に当てて、考え込むように呟いた。
「四階の部屋に、フラッフィーがいたのを僕見たんだ! 足元に扉があって、何かを守ってるみたいだった。絶対に賢者の石だよ」
「ハリー、あなた森だけじゃなく四階まで行ったの? まだ入学してから半年も経ってないのに校則を破りすぎだわ」
ソフィアが説教を始めそうな雰囲気を察知したのか、ハリーは「マルフォイにはめられたんだよ」とごにょごにょ呟いた。ソフィアは、これは双子以上の問題児かもしれないとハリーを見てため息をついた。
「もしハリーの言った通り賢者の石がその部屋に保管されているとして、警備を頼むならもっと適任の人が他にいると思う。クィレルは今年復帰した先生だから、ダンブルドアがクィレルを頼ることはないんじゃないかな」
セドリックが気まずい雰囲気から仕切り直すように言った。
「例えばマクゴナガルなら納得よね、副校長だし。でも、そもそもダンブルドア一人で問題ない筈だわ。最も偉大な魔法使いなんだもの」
ソフィアは自信なさげに付け足した。
「クィレルはダンブルドアが施した保護魔法を切り抜ける方法を知ってるんじゃないかしら? その、怪しげなまやかしとやらで……ダンブルドアの魔法を……」
「ホグワーツの先生総出で守ってるっていうのもあり得るね」
「その場合、みんなで協力して一つの魔法をかけるというより、それぞれが保護魔法をか
けているのかもしれないわね。クィレルが担当しているところの切り抜け方がスネイプには分からないんだわ」
「二人ともありがとう!」ハリーは、セドリックとソフィアの意見にしきりに頷いた。
「ロンとハーマイオニーにも、二人の話をしてみるよ。また相談させてね」
自分の意見を信じて、さらには真剣に意見を出してくれることがよほど嬉しかったのだろう。ハリーは嬉しそうに何度もうなずくと、ソフィアたちに別れを告げて急ぎ足で箒小屋へと箒を置きに行った。
「関わらないように注意しなくてよかったのかしら」
ソフィアは、急にハリーが事件に巻き込まれるか、事件を起こすのではないのかと不安に駆られた。セドリックは箒を丁寧に持ち直すと、首を振った。
「多分僕らが止めたところで信じてくれなかったで済ませちゃうと思うんだ。校則を破ることに抵抗がなさそうだから、先生に言いつけたところで意味はなさそうだし、暴走しかねない。だったら、僕らも関わっておいて、本当に危なくなりそうなとき先生に言おう」
セドリックの言葉にソフィアは口をあんぐり開けた。ハリーの今後の安全まで考えて、セドリックはあの時ハリーの話に真剣にアドバイスしたのだ。他の寮の下級生なんて放っておいても問題はない、それどころか相手はついさっき自分を負かしたハリーだ。憎たらしく感じてもおかしくないのに、セドリックはなんて優しいのだろうかとソフィアは改めて驚いた。
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