▼ 新学期5
「追いかけてみましょ」
ソフィアが声音に好奇心をにじませながら言った。双子と共に育っただけあって、ソフィアは好奇心に忠実だった。セドリックが困ったように眉を下げ、後ろに座るソフィアを振り返る。
「駄目だよ」
「必要ならルールだって破らないと」
「違う、危険すぎるよ。ダンブルドアは無意味に立ち入り禁止にするはずないだろ。僕らが入るにはこの森は危険すぎる」
「……でも、下級生を一人で行かせていいの?」
セドリックが押し黙った。箒は静かに高度を下げて、森の中へと入っていく。ハリーがソフィア達の存在に気が付いて、驚きで目を見開いた。こういう時に声を上げないのだから、ハリーは一年生とは思えないくらい立派だ。ただし、一年生なのに平気で校則を破って禁じられた森に入り、一人で怪しい人影を追いかけているのだから、この事態を知ったら彼の保護者は頭を抱えるだろう。
セドリックがひときわ高いぶなの木を指さした。意図を察したらしいハリーは静か犬なずいて、スィーッと木へと移動し静かに降りた。ソフィアも、セドリックに手伝ってもらってなんとか近くの木の幹に腰かけた。葉っぱが生い茂っていて下はよく見えない。ただ、聞こえてきた声にソフィアは驚いて目を見開いた。スネイプとクィレルの声が聞こえる。校内では見たことのない組み合わせだった。
「……な、なんで……よりによって、こ、こんな場所で……セブルス、君にあ、会わなくちゃいけないんだ」
「このことは二人だけの問題にしようと思いましてね」
スネイプの声は、生徒をいじめる時が猫なで声に思えるくらい、氷のように冷たかった。
ソフィアは興味津々で下を覗き込もうとするので、セドリックはソフィアが落ちないようにローブを捕まえておく必要があった。ハリーのいる木の真下辺りに、クィレルとスネイプが立っていた。先ほどのマントを着ていたのはスネイプのようだ。フードは脱いでいる。
「生徒諸君に賢者の石のことを知られてはまずいのでね」
賢者の石だなんて本の中でしか縁のない単語に、ソフィアとセドリックは顔を見合わせて首を傾げた。ハリーは思い当たることがあったのか、さらに身を乗り出して熱心にのぞき込んでいる。
「あのハグリッドの野獣をどう出し抜くか、もうわかったのかね」
「で、でもセブルス……私は……」
「クィレル、我輩を敵に回したくなかったら」
スネイプは声を一段と低くした。クィレルはこれ以上ないほど体を縮こませている。
「ど、どういうことなのか、私には……」
「我輩が何が言いたいか、よくわかってるはずだ」
「……あなたの怪しげなまやかしについて聞かせていただきましょうか」
「で、でも私は、な、何も……」
「いいでしょう」スネイプがさえぎった。「それでは、近々、またお話をすることになりますな。もう一度よく考えて、どちらに忠誠を尽すのか決めておいていただきましょう」
スネイプはマントを頭からすっぽりかぶり、大股に立ち去った。もう暗くなりかかっていたが、その場に石のように立ち尽すクィレルの姿が見えた。ソフィア達はクィレルが立ち去るまで静かに木の上で身を潜ませた。
クィレルとスネイプは何かを企んでいるのだろうか。どちらに忠誠を尽くすかだなんて、クィレルを従えようとしている人物がスネイプともう一人いるといるのだろうか。ソフィアの頭の中は疑問でいっぱいだった。
「ルーモス 光よ」
クィレルがいなくなる頃には、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。セドリックが杖先に明かりを灯す。ハリーの目は何か確信を得たようにギラギラと輝いていた。
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