▼ 新学期4
暫くすると、段々と点が大きくなる。セドリックがソフィアの存在に気が付いたらしい。ガニメドに誘われるようにピッチへ舞い降りたセドリックは、ひどく困ったような顔をしてソフィアとガニメドを交互に見た。探しに来させたことか、試合に負けたことに対してかは分からないが、セドリックが何か謝罪をしそうな雰囲気だったのでソフィアは慌てて口を開いた。
「クリスマスにもらったペットなの」ソフィアは言った。
「ペットはフクロウ以外禁止のはずだったけど……」
頬を掻いたセドリックは困りきった顔をしていたが、ソフィアの表情を見て、誰にも言わないよと意見を変えた。禁止されてるんだから連れ出すなら注意してねと茶目っ気たっぷりに笑う。
「今日の試合、残念だったわね」
「完全に僕のせいだよ。打倒ニンバスなんて言ってた癖に……恥ずかしいな」
セドリックの瞳には悔しさや自責の念が色濃く浮かんでいた。ソフィアは立ち上がると、セドリックの方へ近づく。ギリアンがよく叩くように、少しだけ強くセドリックの背中を叩いた。
「セドのせいだけじゃないに決まってるでしょ。そんなに自分を責めるなら、私も応援足りなかったせいだって泣いちゃうわよ。落ち込んでる時間を使って、次のスリザリン戦に向けて作戦を立てましょうよ」
にんまりと笑って手を差し出すソフィアに、セドリックは目を丸くし、破顔した。
「ほんと、ソフィアには敵わないよ」
ソフィアの手に、笑いながらセドリックが手を伸ばす。重なった手を、セドリックがしっかりと掴んでソフィアを引き寄せた。珍しく悪戯っ子のような笑みを浮かべて、もう片方の手で箒を掲げている。
「空の散歩に付き合ってくれないかな?」
セドリックの提案に、ソフィアの口から死にかけのピクシー妖精のような悲鳴が漏れた。セドリックに乗ってるだけなら落ちないよと言い含められ、渋るソフィアも終いには頷いた。満足そうにセドリックは微笑んだ。さきほどまでの、鬱々とした表情は嘘みたいだ。
箒に乗って空へと上れば、寒さはより酷くなった。唯一の暖かさはセドリックの少し高い体温だけだ。ソフィアは寒いから早く降りようと言おうとしたが、その言葉も周囲を見渡せば空気に溶けて消えた。
夕焼けが芝生から城まで紅く染めて、オレンジ色の柔らかな世界を創り出していた。ホグワーツ城の窓が夕日を反射して、キラキラと輝いている。ひどく幻想的な景色だった。ガニメドが、甘えるようにソフィアとセドリックが乗る箒の周りをグルグルと旋回している。
「あっ!」
「どうかした?」
ソフィアは思わず声を上げた。セドリックは笑って彼女の視線の先を追ったが、すぐに黙り込んだ。城の正面の階段を、フードを被った人物が急ぎ足で降りてきた。フードを被っているので誰かは分からないが、明らかに人目を避けている。怪しげな人物は、禁じられた森に真っすぐに歩いて行った。今は夕食の時間なのに、外に出るなんて(それも禁じられた森に行くなんて)どういう事情だろうか。
「あれって誰だろう」
「ローブの人は分からないけど……後ろを追いかけているのはハリーだわ」
人影を、ハリーがこっそりと上空から追いかけている。ハリーはセドリックとソフィアには気づいていない様子だった。一部始終を見られていたなど、思いもしなかっただろう。無言で見送ったソフィアとセドリックはお互いに顔を見合わせた。
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