immature love | ナノ


▼ 新学期3

 間も無く全員が整列し、スネイプが笛を吹いて鋭く高い音が響き渡った。同時に、選手全員が宙へと浮かび上がる。試合の興奮はよそに、スネイプが難なく箒に乗っていることにソフィアは失礼ながら驚いた。運動神経が良さそうには全く見えないので、選手の邪魔にならないよう立ち回るなんてできると思っていなかった。

 ソフィアは夢の中でスネイプが箒に乗っている姿を見たことがあった。あの時は夢の出来事だからと不自然に思わなかったが、こうして審判をしているスネイプを見ると違和感ばかり覚えてしまう。スネイプが光の差さない地下牢ではなく、太陽の光を浴びて外にいるだけで珍しいのだから仕方ない。

 ジョージが打ったブラッジャーは、運悪くスネイプの方へ飛んで行った。故意なのか、偶然の事故だったのか非常に怪しい。ハッフルパフにペナルティー・シュートが与えられ、ソフィアは幼馴染の思い切りの良さに苦笑いしながら皆とハイタッチした。

 今度はフレッドがスネイプの進路を妨害しただとかでハッフルパフにペナルティーシュートが与えられた。セドリックのセリフは否定すべきだろう。彼は贔屓で不公平な審判をする先生である。連続するペナルティーに、グリフィンドール生たちの観客席から、スネイプに向かってブーイングが起きた。この試合が長引けば、セドリックがスニッチを捕まえられなくても問題ないほど点差が開きそうだ。

「きゃあ! ポッターったらやり返す気だ!」

 面白そうにマルタが悲鳴をあげる。スネイプが箒の向きを変えた途端、彼の耳元を紅が掠めるように通り過ぎる。スネイプが避けたことに、試合そっちのけでマルタが拍手していた。ソフィアは、空中で行われている見たことのある光景に固まった。

 ソフィアはこの後の展開を知っている。スネイプのすぐ近くを急降下したハリーが掲げる手には、スニッチが握られているはずだ。先ほどまでのブーイングが嘘のように、会場がいまだかつてない大歓声に包まれるだろう。そのまま地上に降りたハリーを、次々に追いかけてグリフィンドールの選手が我先にとハリーを抱き締める……。

 固まったソフィアをよそに、時間は進んでいく。割れんばかりの歓声がピッチを賑わした。試合開始から五分も経っていない。ソフィアが以前にこの光景を見た時は、グリフィンドール対スリザリン戦の夢だと思っていたが、今まさに自分たちの試合で同じ光景が繰り広げられている。

 夢と同じことが現実に起こっている。ソフィアは自分が予知夢を見たということが信じられなかった。夢を見た時に、対戦相手がハッフルパフだと気づいていれば、ソフィアは何か行動することができたのだろうか。スネイプが審判をしていることや、対戦の組み合わせから、予知夢だと判断してハッフルパフのために何かしただろうか。

 同じ空中には、驚愕に目を見開き、顔を青白くさせたセドリックがいる。今回、完全にシーカー同士の対決のような形で敗北を喫した。勝負にすらならず、ハリーの独壇場だ。同じく今年シーカーになった一年生に負けたなんて、ショックにきまっている。彼の顔を直視できず、ソフィアは俯いた。

 談話室は、前回の試合後と違って静かだった。セドリックは試合が終わってから姿を見せていない。キャプテンのマイロ・ブラウンが暖炉の前の椅子に座っているのでソフィアは隣に座った。

「お疲れ様、マイロ」

「どうしたんだ?」

 マイロの声はやはり元気がなかった。ゆるやかな優しい笑みを浮かべているが、眉は下がっている。試合で負けたばかりなのだから、当然だ。マイロは人一倍大きい体格のチェイサーだったが、今は小さく見えた。

「セドリックはどこにいるか知ってる?」

 下手に試合のことに触れない方がいいのだろうか。ソフィアは何気なさを装って、できるだけ普段と同じように聞いた。

「俺もどこにいるのか分からないんだ、一人になりたいって言われちゃってさ」

 マイロは困ったように頬を掻いた。

「探しに行ったら嫌がりそうだった?」

 ソフィアは思案してから、首をかしげる。ソフィアは何かの試合に出たことがないので、こういったときにどう接すればいいのか分からなかった。

「いや、君が行くなら嬉しいんじゃないかな。多分まだピッチにいるよ」

 セドリックはクィディッチのチームでも最年少なので、気にかかるのだろう。ソフィアの提案に、マイロは安心したような笑みを浮かべた。

 ソフィアはガニメドを連れ、談話室を抜け出した。玄関ホールを抜け、星空の元へと出る。ガニメドを放してやれば嬉しそうにソフィアの頭上を旋回した。冷えた空気が肌を刺し、マフラーや手袋まで着けてきたのに凍えるように寒かった。

 まるで誘導するように、ゆっくりとガニメドが進んでいく。ピッチにいる筈と言っていたが、セドリックはどこにいるんだろうか。グラウンドや観客席を探しても、人ひとりいない。ソフィアが、ガニメドに戻ろうと声をかけようと空を見上げると、動く点は二つあった。一つはガニメドで、もう一つは恐らくセドリックだろう。ソフィアは呼びかけず、ピッチの青々とした芝生に寝転んで空を見上げた。こうして空を眺めるのは天文学の授業以外で余りないかもしれない。


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