▼ 新学期1
ハッフルパフではアーニーが一番に戻ってきた。休暇が明けるまで、まだ一週間も残っている。寮の入り口に大荷物を抱えて立っているアーニーに駆け寄って、ソフィアは荷物持ちを手伝った。
「なんでそんなに早く戻ってきたの?」
「呪文学の教科書を寮に忘れたせいで宿題が終わらなかったんだよ……忘れてたと思いたいけど、もしなかったらどうしよう」
アーニーの顔からみるみるうちに血の気が引いた。ソフィアは大丈夫よと根拠もなく励まして、アーニーの荷物を持って寝室へ向かった。アーニーのベッド脇の机に置かれた「基本呪文集(一年用)」を見て、アーニーが安堵のため息をついて頭を緩く振った。芝居がかった仕草だが、アーニーは大真面目だ。
アーニーはハッフルパフらしく、とても真面目で誠実な子だ。普通であれば、諦めるだけで早めに学校に帰ろうなんて思わないだろう。ソフィアは、宿題で分からないことがあれば聞いてねと言って、自分の部屋に戻った。
寝室のサイドテーブルを一応確認したが、幸いにもレティとマルタも教科書は忘れていかなかったらしい。友人が困らずに済んだことは嬉しいが、もし忘れていたらアーニーのように早めに帰ってきてくれたかもしれないと考えてしまい、ソフィアは自分の性格の悪さに顔をしかめた。ガニメドが、笑ったり顔を顰めたりと忙しい自分の主人を不思議そうに見ている。
新学期が近づくにつれて、ホグワーツも徐々に生徒が帰ってきた。クリスマス休暇が明ける一日前、明日から始まる授業を思えば憂鬱だが、ホグワーツへ帰ってくる友人たちを考えれば憂鬱さも吹き飛ぶようだった。ベッドに寝転がり、陽気に鼻歌を歌う。
「楽しそうね」
部屋に入ってきたレティが、久しぶりの挨拶よりも先にソフィアの歌に笑い声をあげた。後から入ってきたマルタが「ビートルズだ!」と瞳を輝かせている。
「ビートルズ?」レティが首を傾げた。「マルタが知ってるってことは、マグルの歌ってこと?」
「イギリス人なのに知らないなんて!」
マルタが信じられないと言いたげに目を見開いて悲鳴を上げた。驚愕した様子のマルタにソフィアは笑った。マグルからすれば世界的に有名なバンドだが、ソフィアの周りでビートルズを知っている魔法族は殆どいない。マグルと魔法族の文化の隔たりは、やはり思っている以上に大きかった。ソフィアだって、マグル学を取らなければイギリスの首相が誰なのかすら知らずに過ごしていただろう。
「それより……あなたのベッド横にいる鷹だか鷲だかは、ペット可に含まれてたかしら」
「さあ、ルールはよく思い出せないの」
肩をすくめてガニメドを撫でるソフィアにレティは呆れたようにため息をついた。ウィーズリーのとこの双子に似たのねというレティの言葉は無視して、ソフィアは寝室を出て談話室へ向かった。
「久しぶり」
「セド!」
ソフィアたちが談話室に行くと、中央のソファに座っていたセドリックが立ち上がって片手を上げた。隣に座ったギリアンが「たった二週間ぶりじゃないか」と欠伸をしながら言った。感動の再会には興味がないようで、ギリアンは退屈そうにソフィアたちを横目に見るだけだ。
「もうすぐ試合だけど、休み中は箒には乗った?」
「一応ね、でも間違いなく勘は鈍ってるよ。試合までは毎日練習必須だろうな」
セドリックは、小さなお守り袋を懐から出したセドリックは悪戯げに微笑んだ。
「まあ大丈夫だよ、僕にはこれがあるからね」
レイブンクロー戦で渡したお守り袋だ!
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