immature love | ナノ


▼ クリスマス休暇2

「ついでにソーセージも貰ってくるか」

 フレッドが立ち上がった。ソフィアを見て笑ったので、恐らくフレッドもしもべ妖精から貰う気なのだろう。ソフィアがジョージに小声でキッチンの入り方を知ってるのかと聞けば、ジョージは呆れたように一年の頃に見つけたよと笑って言った。

「おい! ソフィア! いくら君でも校則を破るのは許されないぞ!」

 寝室からパーシーが降りて来た。面倒だから会いたくはなかったのにと、ソフィアは深いため息をついた。パーシーは歩く校則辞典なので、身内といえども容赦してくれない。

「校則は夜の校内、三階の部屋、禁じられた森以外は書かれてないわ。他の寮の談話室に行ってはいけないなんて校則、書いてあったかしら?」

 ソフィアは顎をツンと上に向け、堂々と言った。パーシーはみるみるうちに顔を真っ赤にして、足音を立てながら談話室を出ていった。減点されなかっただけでも奇跡だ、ソフィアはジョージと顔を見合わせた。ハッタリだったが、どうやら本当に校則に明記されていないのだろう。

「パースが随分楽しそうにしてたけど、俺抜きで面白いことしてないだろうな?」

 ソーセージやクランペット(なぜかキッチンにはないはずのバタービール)、沢山の食べ物を抱えてフレッドが穴から談話室に入ってきた。ソフィアは笑って片手を上げると、フレッドがハイタッチする。

「で? ソフィアがやったのか?」

「言い負かしてやったの」

「そりゃ最高だ」

 フレッドは楽しそうに笑うと、暖炉の前に屈んでソーセージを串で刺して暖炉の火で炙っていく。パーシーという災難を乗り越えたソフィアは、満足感に身を浸しながら、ゆったりと肘掛け椅子に座り直した。

 ロンがハリーにチェスの手解きをする様子を眺める。ハリーはどうやら人に借りた駒を使っているらしく、駒からの信用が皆無だった。チェス自体も初めてだろうに、こんなにも野次を飛ばしていちいち命令に歯向かわれては混乱するだろう。

「私をそこに進めないで。あそこに敵のナイトがいるのが見えないのかい? あっちの駒を進めてよ。あの駒なら取られてもかまわないから」駒が叫んだ。

「違うわ、駒が何と言おうが、此処に置いてナイトに取らせるの」

 ソフィアは、あちこちから飛んでくる野次に固まってしまったハリーを見かねて、盤の上をコツコツと指で叩いた。ハリーのチェスには、今や盤上の駒だけでなく横の席からも横やりが入っている。ロンが見かねたようにソフィアを見た。

「ソフィア、ハリーの邪魔しないでよ!」

「はいはい、もう黙るわね」ソフィアは口にチャックをするジェスチャーをして、両手を挙げた。

 フレッドが焼き終えたソーセージを差し出すので有り難く受け取り、ソフィアは齧りながら観戦に徹した。ソフィアにはなぜか実は高級ソーセージを用意したのではないかと疑った。普段朝食で出てくるソーセージと全く同じものなのに、驚くほど美味しく感じる。

「選手交代しない?」

 黙ってから時間もあまり経たない内に、ソフィアが提案した。見ているだけというのは暇で、なによりソーセージやクランペットは十分すぎるほど食べたので手持ち無沙汰になってしまった。ソフィアの提案(下級生相手にみっともなく駄々を捏ねたとも言う。)によって、チェスもトーナメント形式になった。

 ソフィアとハリーの対戦は、やはりチェスに触れてきた年数が違うためソフィアがあっという間に勝ってしまった。不満げなハリーに、得意になってウインクする。フレッドが覗き込んで大袈裟に仰け反った。

「こりゃ驚いた。ハリー、元気出せよ」

「今日が初めてなんだから仕方ないだろ。落ち込んでないよ」

 フレッドのわざとらしい励ましに、ハリーが苛ついた様子で返す。ソフィアは揶揄われているハリーが面白くて声に出して笑った。

「次は手加減してあげるわね」

「手加減してみろ、ソフィアの実力なら自滅するね」

 ジョージが駒を並べ直しながら肩をすくめて言った。ソフィアはチェスが苦手というわけではない、ウィーズーリー兄弟が強すぎるだけだ。今度はソフィアが不満げに頬を膨らませた。

 トーナメントはロンの優勝で幕を閉じた。ハリーは双子が負けたことに驚いていたが、ロンは贔屓目無しに見てもチェスの名プレイヤーだ。ロンが優勝商品の代わりとばかりに渡されたバタービールを瓶で飲む様子をハリーが羨ましそうに見ている。ロンは視線に気づいて、慌てたように「ひと口飲む?」とハリーに聞いた。一年生の可愛いやり取りに、ソフィアは微笑ましい気持ちになった。

「僕がマクゴナガルを呼ぶ前に帰ることだ……」

 夕食が終わったくらいの時間になると、談話室に帰ってきたパーシーが顔から湯気が出しかねない様子で言った。パーシーならやりかねないとソフィアは焦った。パーシーは、友達との団欒より、監督生として友達を罰することに幸せを感じるキチガイだとソフィアは本気で思っている。パーシーの顔は今や怒りで顔が真っ赤になっていて、運が良ければマクゴナガルを呼ぶ前に血管が切れて倒れるだろう。ソフィアは命からがらグリフィンドールの談話室を飛び出した。

 見つかったのがマクゴナガルじゃなくてパーシーだったのは幸運に思うべきかもしれないとソフィアは渋々思うことにした。マクゴナガルに下手な屁理屈を捏ねれば、減点どころか罰則をくらいそうだ。少なくとも、今日一日ウィーズリー兄弟とハリーと楽しく過ごすことができた。

 ハッフルパフの誰もいない寝室で、少しばかり寂しい思いをしながらソフィアは目を瞑った。まだ一時間も経っていないのに、賑やかで赤と金色に囲まれた塔の上が恋しくなってしまう。もう一度談話室に行っちゃダメかしら……パーシーはもう寝てるかも……。段々と頭がぼんやりとして頭が回らなくなっていく中、明日は何しようかとソフィアは幸せな想像に浸りながら眠りに落ちた。

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