▼ ホグズミード村4
「三本の箒でバタービールを飲まないか?」
「大賛成よ」
フレッドの提案に、ソフィアは両手を挙げて万歳した。三本の箒の店内は、ゾンコと同じくらい人でごった返していた。暖炉の炎と人の熱気で暖かく、喧騒がほどよく耳に響く。カウンターの向こうにはスタイルのいい女性がいて、カウンターに着いている荒くれ者たちは彼女に夢中のようだった。
「飲み物を買ってくるよ」
フレッドがそう言って、ゾンコの商品を奥の空いていたテーブルに置いていくと、カウンターの方へ向かった。背が高いフレッドは人混みの中でも、ソフィアの席からは赤毛だけが少し見える。こんなに目立つのに、何故ゾンコの店ではジョージを見失ってしまったのだろうとソフィアは首を傾げた。
注文しているフレッドを眺めながら、横を通り過ぎたホグワーツ生がフィッシュ・アンド・チップスを持っているのが見えて、ソフィアは急にお腹が減ったように感じた。フレッドに今から頼もうかと思ったが、赤毛の頭が人の隙間を縫ってこちらへ向かってくるのが見えたので、あとで自分で買いに行こうとソフィアは諦めた。
「ああ! フレッド! あなたって最高だわ!」
戻ってきたフレッドを見て、ソフィアは咄嗟に叫んだ。心の底から出た賞賛だ。フレッドは、バタービールの大ジョッキだけでなく、フィッシュ・アンド・チップスをカゴ一杯分買ってきているではないか。
「間違いなく、そろそろソフィアが腹を空かせる時間だからな」
フレッドはにやりと笑って、ソフィアの手放しの褒め言葉を受け取った。ソフィアとフレッドは大ジョッキを持ち上げ乾杯した。ソフィアはジョッキを煽り飲む。ビールというくらいだから苦いと思っていたけれど、泡はまるで生クリームのように甘い。まるで砂糖水を飲んでいるようだ。バタービールが血液のかわりに全身を巡っていくようで、ソフィアの体は急にポカポカと全身が暖かくなった。
甘ったるいけれど口の中に残らないしつこさに、ソフィアは思わずゴクゴクと飲んでジョッキはすぐに半分まで減ってしまう。こんなに美味しい飲み物は飲んだことがなかった。初めてマグルが売っているコカコーラを飲んだ時と同じくらいの感動だ。
「ソフィアはいつから男になったんだ?」
「え?」
ケラケラと笑ったフレッドがソフィアの口元を指差す。慌てて口を拭う。どうやら泡がついていたらしい。飲むことに夢中で気がつかなかったのが恥ずかしい。ソフィアは顔を赤くした。ごしごしと袖口で顔を拭いて、知らん顔をするソフィアを見てフレッドはニヤニヤと笑っていたが、さらに揶揄ってはこなかった
「聞いてよフレッド、ハッフルパフでクリスマス休暇に残る人私しかいないのよ?」ソフィアは話を変えた。
「おいおい、クリスマス、寮に一人ぼっちなんて悲しいにもほどがあるぜ」
あからさまに話を変えたのにフレッドは一瞬ニヤリと笑ったが、どうやら乗ってくれるらしい。「かわいそうなソフィアちゃんはクリスマスは一人ぼっち」なんて変なメロディーで口ずさんでさえいる。妙に頭に残るリズムで歌うフレッドに、ソフィアはむすっと顔をしかめた。フレッドも残るのだから、遊びに誘ってくれてもいいのにとソフィアは思った。
「仕方ないじゃない」
「ああ、そうとも。仕方ないさ。でも、一人ぼっちは一人ぼっちだろ?」
そう言って悪戯に笑いながら先ほどの歌詞を口ずさむ。ソフィアは持っていた空のジョッキでフレッドの頭を殴りたい衝動に駆られた。慰めて欲しいとまでは言わないが、何故こうも無神経なのだろう!
「意地悪ね!」
「怒るなよソフィア、冗談さ。これ位で怒ってちゃ僕のママより心が狭いぜ」
「余計なお世話よ」
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