▼ ホグズミード村2
「あなた達は帰るの?」
ソフィアは話を逸らそうと質問した。
「ママ達はチャーリーに会いにルーマニアに行くんだ。だから俺らみんな残るよ」ジョージが呆れたようにフレッドを見ながら言った。
「そうだったのね! 嬉しいわ!」ソフィアの声が弾んだ。
「さぞ嬉しかろう。ところで、昼ご飯を食べに広間に行かないか?」
フレッドは伸びをしながら立ち上がる。時間がいつの間に過ぎていたのだろうか。時間を意識した途端、ソフィアの腹がグウグウと音を立てて主張し始めた。三人で広間へ向かった。広間はすばらしい眺めになっている。クリスマスツリーが沢山並び、壁も細やかな装飾が施されており、空中に浮かぶ蝋燭もいつもの白色ではなく赤や緑とカラフルだった。ツリーも、それぞれ魔法をかけられて凝った飾り付けだ。
「そういえば、エヴァーテ・スタティムなんて誰に向けて使うつもり?」
席についてサンドイッチに齧り付いたソフィアは、もぐもぐと食べながらフレッドに質問する。先ほどの部屋でフレッドが熱心に練習していた呪文は対象を空中に吹き飛ばす呪文だ。次の悪戯で使うつもりだろうか。ソフィアの質問にフレッドはニヤリと笑った。
「人に直接使うなんて物騒なことはしないさ。応用して、雪をクィレルのターバンに付き纏わせるんだ」
「アクシオの方がいいんじゃないか?」
「それはこの前試して上手くいかなかっただろ?」
「あともう少しでいける気がするんだけどなあ」
「クィレル先生をいじめるなんて絶対にやめてちょうだい」
ソフィアはぴしゃりと言った。強い口調に、双子は顔を見合わせて、なんだなんだと興味津々にソフィアに詰め寄る。
「特に理由はないわよ、流石にターバンを狙うなんて可哀想だから」
ソフィアは肩をすくめた。自分を可愛がってくれている先生だからなんて言えば、双子はますますクィレルをターゲットに定めるだろう。
「いつからそんなにハッフルパフらしくなったんだ?」ジョージが首を傾げた。
「そんな曖昧な理由で止まる俺らじゃねえよな」
フレッドはニヤリと笑って教職員が座る卓を見た。ちょうど、クィレルが神経質にターバンの位置を直しているところだった。悪戯すると決めた時の双子のしつこさを思い出し、ソフィアは憂鬱そうに溜息をついた。
「善は急げだ、早速試してみようぜ」
ジョージが言った。
「だから、やめなさいって!」
ソフィアは息も荒く、ジョージの肩を軽く叩いた。そう言っている間にも、クィレルは食事を終えたのか大広間を(周囲の生徒に怯えているかのように)挙動不審な様子で足速に出ていく。ソフィアの両側に座っていた双子も急げと言わんばかりに、食べかけのサンドイッチも放り出して追いかけていく。
ソフィアが食い意地に負けてサンドイッチを無理やり口に押し込んでから二人を追いかけると、すでにクィレルのターバンは被害に遭っていた。ああ、一足遅かった。サンドイッチを口に詰め込まず、真っ先に来ていれば間に合っていたかもしれない。
「クィレル先生! 大丈夫ですか?!」
怯えた様子で必死にターバンを掴んでいるクィレルに駆け寄る。周りは大広間に食事をとりに来た生徒で溢れていて、彼らはみんなクィレルを見て囃し立てた。クィレルは、ターバンを杖を取り出して雪を弾いていくが、雪は至る所に積もっているためキリがない。クィレルはターバンを両手で必死に守りながら叫んだ。
「ウィ、ウィ、ウィーズリー! き、き、君達には、しょ、処罰を、う、受けて貰う! グ、グ、グリフィンドールから、ご、五点、げ、げ、減点!」
クィレルはいつにも増して吃りながら叫ぶと、慌てて大広間へと逆戻りするように駆けて行った。双子が自分達が減点だけでなく、罰則を食らったことに呻いていたが、ソフィアは自業自得だと鼻を鳴らしてクィレルに付き添って大広間へ入る。雪玉は流石に城内までは追いかけてこなかった。
「先生、大丈夫ですか?」
ソフィアはもう一度聞いた。
「ア、アスターさん。き、君は、じ、実に優しいね。ハ、ハ、ハッフルパフのも、模範生だ」
クィレルは幾らか落ち着きを取り戻した様子で、ターバンの位置を直してからソフィアに向き合って微笑んだ。ソフィアはクィレルに褒められたことが思いのほか嬉しく、顔が熱くなったことを誤魔化すようにへらへら笑った。
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