immature love | ナノ


▼ みぞの鏡4

 無理に教室の外へと連れて行こうとするソフィアに、ジョージは顔をしかめている。

「お前様子が変だぞ」

 ジョージがソフィアの手を払って、向き直る。ソフィアの両腕をしっかりと掴み、背を屈めた。目線を合わせても、ソフィアは上の空で、ちらちらと鏡を見ている。ソフィアが早く一人になって鏡の前を独占したいという気持ちが双子には筒抜けのようだった。

「おい、鏡ばっかり見てるなよ」

 フレッドがソフィアの背後に立って背中を押す。ソフィアと一緒に教室の外へ出て、鏡から遠ざけようとしているようだった。

「やめてよ」

 ソフィアは笑って避けようとしたが、フレッドは有無を言わさずに背中を押す。ジョージは既に廊下に出ており、腕を組んでソフィアを待っていた。ソフィアの顔が徐々に歪んでいく。ソフィアは、自分を無理やり鏡から引き離そうとする双子に、抱いたことのない怒りを感じた。

「邪魔しないで!」

 ソフィアは叫んだ。悲鳴に近い、狂気を孕んだ声だった。フレッドとジョージは驚きで少し肩を揺らし、石のように固まる。双子は今まで幾度となくソフィアに悪戯し、その度に彼女の叫び声や悲鳴は飽きるほど聞いてきた。ただ、こんなにも切羽詰まった声は初めてで、どう返せばいいのか双子には分からなかった。

「鏡にはママとパパも、それにクレアとドウェインもいるの。皆との時間を邪魔しないでよ!」

 ソフィアの叫びに、これは重症だと双子は感じたようだ。固まっている二人をよそに、ソフィアはふらふらと教室の中へ戻っていき鏡の前に座り込む。鏡を見つめるソフィアは虚構を見つめるように焦点が合わずぼんやりとしていて、時折楽しそうに微笑んでさえいる。このままでは聖マンゴ病院行きもあり得ない話ではないだろう。
 フレッドはソフィアの肩に手を置き、此方を向かせようとするがソフィアはすぐに鏡を見つめる。怒り半分申し訳なさ半分のため息をついて、フレッドは杖を鏡に魅入られているソフィアに向けた。

「オブスキューロ 目隠し」

「何するの!」

 視界が急に奪われたことに焦るソフィアを、フレッドはしゃがんで抱え込むように抱きしめた。慌てた様子のソフィアはフレッドがこっそりとローブから杖を盗み取ったことに気づく様子はない。フレッドがソフィアの頭をなでて「ソフィア」と名前を呼べば、少しばかり落ち着きを取り戻したようだった。

 ジョージも心配そうではあったが、それ以上に自分そっくりな兄と幼馴染の抱擁を見ていたくないらしい。ジョージは、フレッドからソフィアの杖を受け取ると、誰か来ないかの見張りも兼ねて、入口のすぐそばに立ち廊下を見た。

「少し落ち着けよ、ソフィア」

「ねえ、あなたたちの悪戯に付き合ってる暇はないのよ」

 フレッドがソフィアの頭の上に顎を乗せたまま喋るが、ソフィアはなんとかフレッドの腕の中から出ようともがいて言葉が届いているようには見えない。

「いつからクレアおばさん達のことを名前で呼ぶようになったんだよ……」

 フレッドの絞り出すような声に、ソフィアは黙り込んだ。暴れるのもやめ、フレッドの腕の中でおとなしくなる。ソフィアが聞く態勢になったことを見てから、フレッドはゆっくり息を吐いた。

「マッキノンさん達がソフィアの親じゃないなんて言わないさ。でも、今のソフィアを育ててくれたのはクレアおばさん達だろ?」

 フレッドは杖を振り、ソフィアにかけた呪文を解いた。視界を取り戻したソフィアは、まっすぐ見つめてくる視線に目を泳がせた。


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