▼ みぞの鏡3
「よお、ソフィア」
揃った声に振り向けば双子がコチラを向いて手を振っていた。立ち止まったソフィアが首をかしげると、双子は眉を歪め心配そうな顔をした。
「最近どうしたんだよ、顔色悪いぜ」フレッドが言った。
「下手すりゃゴーストより青白いな」ジョージが腕を組んで顔をしかめた。
二人はしつこくソフィアから離れず顔をのぞき込んでくる。一体どうやって誤魔化そう。ソフィアはしばらく考えを巡らせたが、双子を撒けるような方法は思いつかない。しかし、すぐに考えを改めた。フレッドとジョージはソフィアが養女であることを知っている。実の両親を二人に会わせる……なんて素晴らしいアイデアだろう!
「二人にも見せてあげる!」
名案だと顔を輝かせたソフィアに、フレッドとジョージは不審そうに顔を見合わせた。動かない二人の腕をそれぞれ掴み、歩き出す。最初動こうとしなかったが、二人とも諦めたようにソフィアについてきた。職員室の近くの教室にはいつも通り誰もおらず、ただ鏡が中央に置かれている。
「おいおい、こんな鏡置いてあったか? 相棒」
ジョージが鏡の後ろに回り込み、不思議そうに見ながら言った。
「前に来た時は無かったぜ、つまらない部屋だったよな」
フレッドは教室の入り口にいるソフィアの隣に立ったまま、肩をすくめる。
「いいから! 鏡の前に立って! 私の両親を紹介するわ」
これでは埒が明かないとソフィアは隣にいるフレッドを鏡の前に連れていこうと引っ張った。
「クレアおばさんとドウェインおじさんはもう死ぬほど会ったことあるぜ、どうしたんだよ」
ジョージがソフィアの元へとやって来た。不審げな様子だ。
「おい、お前なんか様子変だぞ」
訝しむ双子を構うことなくソフィアは腕を引っ張り、鏡の前に連れていく。鏡に映る両親は相変わらず笑顔をソフィアに向けてくれる。フレッドとジョージは食い入るように鏡を見つめるだけで何も反応を示さなかった。ソフィアは痺れを切らして鏡を指す。
「こっちがマーリンで、こっちはアルバータよ。前に話したでしょ、本当のママとパパ」
ソフィアが両親を紹介すると、食い入るように鏡を見つめていたフレッドとジョージはぎょっとしたように(そっくりの顔で、そっくりの表情だった。)、鏡から視線を外した。ソフィアを見る顔は心配や危機感、焦りが浮かんでいる。
「俺は少なくとも、鏡には映ってない」ジョージが言った。
「俺もだ……おい、どうしたんだよ」フレッドが戸惑ったようにうなずいた。
「見えないの?」ソフィアは首を傾げた。「立つ場所が悪いのかも。私の立ってるとこに立ってみて。そうしたら見える筈だわ!」
ソフィアに言われるまま、双子は鏡の前に立つが反応は変わらない。
「俺に見えるのは、スネイプにクソ爆弾を投げつけてる自分しか見えないぜ」
「流石相棒、俺は鏡の中でスネイプにタラントアレグラをかけてる」
鏡に見える内容についてふざけたように笑い合った双子も、すぐに心配げな表情でソフィアを見つめた。両親を二人に紹介できないことに、ソフィアはがっくりと肩を落とした。鏡の中のマーリンが心配そうにソフィアを見つめている。ソフィアは、マーリンを心配させないように明るく微笑んだ。
「本当は二人にも見て欲しかったんだけど、残念だわ。無理やり連れてきちゃってごめんなさい」
ソフィアは肩をすくめて見せる。
「なあ、ソフィア――」
「二人とも寮に帰らないと。時間も遅くなっちゃったわ」
フレッドの声を遮って、ソフィアは双子を連れてきた時と同じように腕を引っ張った。早くひとりになって、鏡の前で両親との時間をゆっくりと過ごしたいとソフィアは思った。
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