▼ 勝利のお祝い7
全員で意気揚々と大広間へ向かう。セドリックとギリアンは既に座席についていたが、セドリックはいつもより青白く、今にも胃の中身を吐き出しそうな雰囲気だった。
「大丈夫? セド」
「うん」
寄せた眉を若干下げながらセドリックは弱々しく微笑んだ。緊張しない訳がない。「スープだけでも飲んだら?」とソフィアの出せる限りの最も優しげな声で言ったが、セドリックは曖昧に微笑むだけで拒否した。これではまるで、他寮の生徒によく言われる無口なディゴリーそのものだ。ギリアンでさえ少し労わるようにセドリックの背中を優しく叩いた。ソフィアはレティ達と視線を合わせ、頷いた。
「これ、セドにあげようと思ってたの」
「……これは、スニッチ?」
レティとマルタとソフィアの三人で作ったそれは、小さなお守り袋だ。日本の「お守り」という勝利祈願のまじないを参考に以前の横断幕の余った布で作ったもので、セドリックのシーカー就任へのお祝いとして以前に三人で作ることにした。横断幕と同じ色が変わる刺繍糸で縫われ、歪だけれど、なんとかスニッチと分かるくらいになっていた。スニッチはお守り袋の表面の布地で羽根をばたつかせ動き回っている。
「必勝祈願のおまじないよ、あげたからには気合入れて勝ちなさいよ」
レティがセドリックにウインクする。呆然とお守り袋を見ていたセドリックは顔を赤く染め、嬉しそうに瞳を細めた。
「有難う、三人で作ってくれたのか?」
「ええ。お祝いしたくって」
肩をすくめたソフィアに、マルタが「自慢のシーカーだからねえ」とサンドイッチを頬張りながら呑気に言った。
「すごく嬉しいよ、絶対勝たないとね」
にっこり微笑んだセドリックは、さきほどの食欲不振が嘘のように、トーストを一口大きく齧った。
ソフィアはレティと協力して、観客席の一番上に大きな横断幕を飾った。幕では、セドリックの名前がギラギラと悪趣味な輝きを放っていた。皆が横断幕をちらちらとみて、驚いたように囁いた。セドリックは今回、ハリーと同様に「秘密兵器」だった。秘密とは、新たなシーカーの存在を伏せていたにも関わらず、学校中の誰もが知っているという意味だ。
会場は、朝早い時間にも関わらず人で埋まっていた。セドリック・ディゴリーといえばホグワーツの有名人だ。ハッフルパフとレイブンクロー以外の生徒も多く来ている。近くの座席にはグリフィンドールのクィディッチチームのキャプテン、オリバー・ウッドもいた。彼は双眼鏡を首から下げ、ノートと羽ペンを持っていた。ぶつぶつと、「ディゴリーがシーカーって本当なのか? 体格が良いんだから、ビーターかキーパーのほうが向いてるだろう?」と呟いていた。ウッドの周りのグリフィンドール生は聞き流しているようで、誰も返事をしていない。
選手がグラウンドに入場した時、セドリックが転んだ。緊張で青ざめていた顔が一転して、どこかのウィーズリー家のように耳まで真っ赤になった。どっと会場が笑う。
「セドリックの野郎! 恥ずかしすぎる! 俺まで恥ずかしい!」ギリアンがなぜか我が事のように顔を覆った。
セドリックは既に持て余すくらい過保護な保護者(もちろんディゴリーおじさんのことだ。間違っても、ディゴリーおばさんではない。)を持っているのに、こんなところにも保護者がいたと、ソフィアは隣に座るギリアンを見て思った。セドリックの顔色が戻るまで待ってはくれず、フーチの笛が高らかに鳴った。十五人が空高く舞い上がる。試合が開始した。
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