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▼ 勝利のお祝い5

 クィレルは頭からつんのめるように前の列に落ちても、ハーマイオニーは、立ち止まりも謝りもしなかった。ソフィアは急いでクィレルを助け起こした。

「大丈夫ですか、先生」

 助け起こしたせいかいつもより距離が近く、にんにくの匂いが強烈だ。息を吸わないようにしたせいか、ソフィアの声は鼻声だった。

「は、はい。あ、あ、アスターさんか。ありがとう」

 クィレルはどこか疲れたようにため息をついた。幸い、誰に突き飛ばされたのかすら分かっていない様子だ。ソフィアがクィレルを助け起こしている間に、スネイプのマントがボヤ騒ぎを起こしていた。ソフィアはすぐにハーマイオニーがやったのだろうと理解できた。スネイプのマントよりもハーマイオニーの安否がソフィアは心配だった。ボヤ騒ぎもすぐに収まり、誰かが詰められている様子もない。ハーマイオニーは捕まらずに済んだのだろうか。

 空中に目を向ければハリーは再び箒に跨がっていた。飛行も安定している様子だ。ハーマイオニーのスネイプが何かしているという発言は間違いなかったらしい。ソフィアは首を傾げた。犯人は本当にスネイプだったのだろうか。ただの生徒を、先生が呪いをかけるものだろうか。いくらスリザリン贔屓が酷いスネイプも、自分の寮を勝たせたいからと生徒を危険に晒したりしない筈だ。(それに、スネイプであれば目立つ場所で呪うより、毒薬を選びそうだと失礼にも思っていた。)ハリー個人に恨みを抱いてるわけでもないのに!

「ハリーの箒は誰かに呪いをかけられていたんでしょうか」闇の魔術に対する防衛術の教授が近くにいたことを思い出し、ソフィアはクィレルに尋ねた。「犯人がすぐ捕まるといいですね」

「そ、そ、そうですね」一瞬だけ、クィレルの視線がスネイプのところで止まった。

「と、ところで、ソフィアさん、前回は、や、約束を……」

 クィレルはハロウィンの日のことを言っているのだろう。トロールの襲撃でクィレルは気絶していたし、パーティーも途中で切り上げて生徒は寮に戻されたので、ソフィアはクィレルに質問できずじまいだった。ソフィアはクィレルからその話を持ち出したことに驚きながら、「今度またお伺いします」と言った。ハーマイオニーやハリーのことが気になったソフィアは、捲し立てるようにお礼を言って、そそくさとその場から逃げ出した。

 席に戻りピッチを見ると、ハリーは何故か四つん這いになっていた。また新手の呪いだろうか。ソフィアだけでなく、観客席に心配そうな囁き声が広がった。何かを吐き出したハリーは、金色のなにかを高々と掲げた。

「スニッチを取ったぞ!」

 スニッチを振り回して、ハリーは叫んだ。呪われたのではなく、スニッチを飲み込んでいたらしい! 大混乱の中試合終了のホイッスルが鳴った。

「やったぜソフィア!」

 試合も終わり、選手退場のはずが、フレッドは真っ先にこちらへと飛んで来た。そのまま箒を降りて、ソフィアのもとに両手を広げて走り寄ってくる。ソフィアはつい長年培った習慣でフレッドにハグを返したが、すぐに我に返って抱きしめる代わりに背中をガシガシと拳を丸めて殴った。

「ちょっと! 目立ちすぎよ!」

「別に俺が目立つのはいつもの事さ」

「嫌な目立ちたがりね! マフラーは返すから、早く戻って」

 ソフィアが慌ててマフラーを外しフレッドに押し付けようとすれば、フレッドは笑いながら一歩下がった。訝しげに眉をひそめたソフィアに、フレッドは楽しそうに笑う。
「ホグズミードの約束、キャンセルされたら困るからな。それまで持っていてくれよ、人質ってことで」

「普通は逆じゃない?」

「なら、ソフィアも何かくれよ」

 屈託なく笑うフレッドにソフィアも観念したように思わず微笑んだ。両手につけていたハッフルパフの手袋を外し、代わりにマフラーを自分の首へまき直す。手袋を差し出せば、間抜け面を披露したフレッド(とても人に悪戯して迷惑をかけてばかりの問題児とは思えない、純粋な子供のような顔に見えた。)は、すぐさま嬉しそうに笑ってその場で手袋を着けると、箒に乗って飛び去った。


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