immature love | ナノ


▼ 勝利のお祝い1

 ハリーがニンバスニ〇〇〇に乗って、遥か上空からスネイプの方に猛スピードで突進していく。遂にスネイプへの不満からとち狂ったように見える。珍しく目を見開いたスネイプが箒の向きを変え、その数センチ横をハリーが颯爽と過ぎ去った。早すぎる速度に輪郭がぼやけて見え、閃光のようだ。

 ハリーは急降下をやめ、箒の柄を上に向けるとふわりと浮いた。ハリーが掲げる手にはスニッチが握られている。会場がいまだかつてない大歓声に包まれた。そのまま地上に降りたハリーを、次々に追いかけてグリフィンドールの選手が我先にとハリーを抱き締める……。

 ソフィアはぱっちりと瞼を開き、そのままベッドから転げ落ちた。ここはクィディッチ会場でも何でもない、いつものハッフルパフ寮の寝室ではないか。あまりにもリアルな夢にソフィアは、まだ夢を見ているような気持ちになった。起き上がって、水差しからコップに水を注ぐ。窓を覗き込めば、草花は風にそよいでのんびりと揺れている。十一月最初の週の土曜日にふさわしい、晴れ渡った寒い朝だ。最高のクィディッチ日和と言ってもいいような天気だった。雨が降る気配すら見せないことに、ソフィアは喜びの声をあげた。ソフィアは箒に乗る才能こそ恵まれなかったものの、クィディッチ観戦が大好きだ。特に、去年からは双子のフレッドとジョージが出るグリフィンドールと自分たちハッフルパフの試合が格別に好きになった。

 今日、グリフィンドールが勝つ夢を見た。あっという間に、それこそ五分と経たないくらいの短い時間でハリーがスニッチを見つけていた。グリフィンドール対スリザリンの試合の日に見る夢としては、とても縁起がいい。さすがのトレローニーでも、ソフィアが見た夢から不幸の前兆を読み取ることなぞ出来やしないだろう。

「でも、試合はもっと長引いて欲しいわね」

 ソフィアは伸びをして、にんまりと微笑みながら呟いた。折角ハリー・ポッターのデビュー戦だ。それになにより、ウィーズリー家の双子が出る。すぐ終わらせてしまうのは勿体ない。地下の談話室は他の談話室より温かいだろうが、それでも寒い。ガウンを身にまとい、寒さで手をすり合わせる。ソフィアは寮が地下室で良かったと思いながら寝室から談話室へ向かった。もしかしたら、まだ朝早いこの時間から、熱心な生徒は席取りに外へ出ているかもしれない。これがハッフルパフの試合だったら、ソフィアもまさに同じ行動をする。

「おはよう、早いね」

 談話室にはセドリックがいた。パジャマにガウンを羽織っただけのソフィアとは違い、こんな朝早い時間からセドリックは既にシャツにセーターまで着込んでいた。休日でもこのようなしっかりした服装は、彼の性格を表しているようだ。きっとギリアンならスウェットかパジャマ姿のままだろう。

「おはよう、セド」ソフィアは片手を上げた。

「足の調子はどう?」

 セドリックも軽く手を振り、それから気遣わしげに足元を見た。

「ええ、薬を貰ってすっかり本調子よ! あの時は肩を貸してくれてありがとう」

「どういたしまして、本当は一瞬君を抱っこしようと思ったんだけどね」

 セドリックが珍しくいたずらっぽい笑みを見せるものだから、ソフィアもつられてニヤリと笑った。

「どうせなら、お姫様抱っこして欲しかったわ。ハッフルパフの王子様にして貰えたら、一生の想い出になったのに」

 肩をすくめて冗談を言いながら、近くに吊るされた花咲か豆の植木に水をやった。一つ鞘をむしり取って、豆を押し出した。

「君が大人しくしてるとは思えなくて。暴れて怪我を悪化させるのがオチだろう?」

 ソフィアの冗談に、セドリックは呆れたように笑った。ソフィアが手元で豆を投げて遊んでいる様子を、片眉上げて見た。くれぐれも落とさないようにと目が語っている。

「勿論よ」

 ソフィアは自信満々に言った途端、豆を落とした。床にこぼした途端、豆は花を咲かせる。暫くの沈黙の後、お互い顔を見合わせて吹き出した。セドリックは肩をすくめて、杖をヒュンと振る。花は根元で切り取られ、暖炉の上の殻になっていた花瓶の一つに生けられた。切り離された豆は暖炉に放り込まれ、パチパチと火花が爆ぜる音がする。


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