immature love | ナノ


▼ ハロウィーン6

 ようやくソフィアがフォークを持って食べ物を物色できるようになった頃、クィレルが全速力で部屋に駆け込んできた。ターバンは歪み、顔は恐怖で引きつっている(彼の表情が引きつっているのはいつものことではあるが、変顔をしているのかと思えるほど更に引きつっていた。)今にもひきつけ起こして倒れそうだ。全校生徒や教授が注目する中で走ってきたクィレルは、ダンブルドアの席までたどり着くと、テーブルにもたれかかり、あえぎあえぎ言葉を紡いだ。

「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」

 クィレルはそれっきり言葉もなく倒れてしまった。倒れそうという読みは当たったらしく、どうやら気を失ってしまったようだ。大広間中大混乱だ。生徒はみんな食べ物を放り出し立ち上がり、悲鳴を上げて立ち上がった。ガシャンガシャンと、四方から食器類が落ちる音が響く。ほとんどの生徒が出口へと急ぎ、大広間の入口に近づくほど人で混み合っていた。ソフィアも思わずパニックから出口の方向へと動こうとしたが、立ち上がった途端に群衆の波に揉まれ転んでしまった。

 痛い!

 転んだ拍子に足首を捻ってしまい、ソフィアは痛みに顔を歪めながらもなんとか立ち上がった。足首が熱を持ち、ずきずきと刺すような痛みが走る。群衆はダンブルドアが爆竹を何度か爆発させたお陰で静まった。その隙にテーブルに体を寄せる。セドリックたちはみんな厳しい表情をしていた。先ほどまでフォークを握っていた手には、杖が収まっている。この中で一人だけ慌てたことが、ソフィアは急に恥ずかしくなった。

 先生から皆寮に帰るようにと指示があり、監督生が引き連れて歩いていく。一年生を固め、すぐそばを離れないようにと監督生はきびきびと指示していた。その後に続こうと立ち上がったソフィアを誰かの手が制する。

「怪我しただろう」

 珍しく厳しい口調のセドリックは、ソフィアの腕を自身の肩に乗せ、腰に腕を回した。ソフィアの驚いたような声に眉を下げる。

「今この人混みで怪我をした君が歩くのは危険だよ、嫌かもしれないけど少し我慢して」

「ううん……ありがとう」

 セドリックの優しさがなんとも言えず、むずむずする。ソフィアは困ったのか照れたのか、どっちつかずの顔をした。観念したように力を抜くと、セドリックはソフィアを支えたままゆっくりと歩き出した。ぞろぞろと生徒たちが大広間を出ていく。さっきは皆楽しそうに大広間の天井や装飾を見ていたのに、今では誰も見ていない。全員暗い表情で囁き合っている。せっかくのハロウィーンもこれでお開きだ。

 ソフィアは疲れきって、寮に戻ってすぐに女子寮へと引っ込んだ。シャワーも浴びずにそのままベッドに潜り込む。段々と瞼が重くなっていく。楽しい夢を見たいわ。ソフィアは思った。部屋に入ってきたレディたちが何か言っている。ソフィアはもうほとんど聞き取れなかった。意識が沈んでいく。深く、深く、深く……。

 暗闇が、ゆっくりと何かの輪郭が見えてくる。ソフィアは目を凝らしてあたりを見渡し、どうやら廊下にいることに気が付いた。

「ダメです……ダメ……もうどうぞお許しを……」

 すぐ近くの教室の中から話し声がした。誰が喋っているのだろうか。どこか聞き覚えがある低い声で、いまにも泣きそうだった。誰かに脅されているようだ。一体誰が教室にいるのだろうか。ソフィアは心配になって、教室を覗き込もうとした。一瞬、眩暈がする。思わず頭を押さえて目を閉じる。

 次に目を開けた時、ソフィアはいつの間にか廊下ではなく教室の中にいた。先ほど泣いていたのは誰なのか、そんな疑問はすぐに霧散した。正面に、洋箪笥を背にして立つスネイプがいた。スネイプは長い、レースで縁取ったドレスを着ている。裾に足が絡まって躓いた。スネイプの顔の数倍の大きさはある、虫食いだらけのハゲタカがついた帽子を被っていて、手にはハンドバッグと呼ぶには少し大きすぎる真紅の鞄を持っていた。

 ああ! なんて馬鹿馬鹿しい!


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