immature love | ナノ


▼ ハロウィーン4

「今の、聞こえたみたい」

 近くで、焦ったような声が聞こえた。ハリーがロンにひそひそと声を潜めて話しかけている。

「それがどうした? 誰も友達がいないって事は、とっくに気がついているだろうさ」

 ロンが強気に言ったが、少し気にしたそぶりで、ちらちらと廊下の奥を見ている。二人は、そばにソフィアが来たと気がついた様子はない。聞こえてきた二人の会話にソフィアは思わず目を釣り上げた。

「ロン! ハリー!」ソフィアは声をかけた。

「げっ、なんだよソフィア」

 ロンが嫌そうな声を漏らしソフィアをみた。居心地悪そうにもぞもぞと手を動かしている。ハリーは後ろめたかったのか、少し眉が下がっていた。二人とも、ソフィアが女の子を泣かせたのを目撃したと思っているらしい。この年齢の子供は、率直な分残酷なことを言う。先ほどのセリフからも何かひどいことを言ったのだろうとソフィアは考えた。友人関係にとやかく言うつもりはなかったが、あの女の子が泣く姿が余りにも可哀想で、つい声をかけてしまった。

「グリフィンドールは仲間を傷つけても何とも思わない、冷たい寮だったみたいね。見てて気分が悪いわ」

 珍しく語気が荒いソフィアの言葉に二人はただバツの悪そうな顔をして黙るだけだ。

「事情は知らないけど、泣かせたのよ。あなた達なら、次にすべき事が分かるでしょう?」

 ふんっと鼻を鳴らしたソフィアは、そのまま二人の横をすり抜ける。実の弟のように可愛がってきたロンも、憧れのハリーも、このまま女の子を泣かせて有耶無耶に放っておくなんて真似はしないでほしい。誰が悪いにせよ、お互い譲歩しつつ話し合うべきだ。仲間意識がスリザリン並みに強いグリフィンドールも、仲間内で誰かを傷つけているようなら最低だとソフィアは顔を顰めた。

 午後の授業も終わって、ソフィアたちは夕食を食べに大広間に向かった。大広間はまるで違う世界のようになっていた。見渡す限り千羽のこうもりが踊るように壁や天井を羽ばたいて行き交い、沢山のくり抜かれたかぼちゃが宙に浮かんでいる。

「ほんとーに素敵!」マルタがはしゃいだ声を上げた。

「そうね」

 ソフィアはさきほどの女の子がどうなったのか気になり、心の底から楽しめそうにないと思った。ぼんやりと返事をしたソフィアに、マルタは不思議そうに首を傾げた。

「元気ないけど、どうしたのお?」

「少し気になることがあって……」

 あまりしつこく注意するのも問題だが、どうしても泣いていた女の子の存在が気にかかる。

「うーん、やっぱり聞いてくるわ! 先に行ってて!」

 どうしたものかとソフィアは一人でうんうん唸ってから、マルタに手を振った。自分でもお節介だと分かりながらソフィアはグリフィンドールのテーブルへ向かった。大広間の折角のハロウィーンの飾り付けも心の底から楽しめそうに無い。

「どうしたんだ? しかめ面して」

 しかめ面のソフィアに臆する事なくフレッドが近くへやってきて、隣へ並んで一緒に歩く。別になんでも無いと言っても、そりゃ無いぜと言ってついてくる。離れる気配のないフレッドに、ソフィアは観念したようにため息をついて立ち止まった。

「ロニー坊やが女の子を泣かせてたの」

「それはウィーズリー家の家訓に反するな」

 少しおどけた様に言うフレッドは、先ほどのへらへらした表情から一転して、訝しげに眉を顰めた。なんで知っているんだと言いたげだったので、今日の午後にあったことを簡潔に話す。ソフィアの説明を聞いて、フレッドは呆れたようにため息をついた。


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