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▼ ハロウィーン3

 マグル学のチャリティ・バーベッジは、良い意味で普通の授業をする。スネイプのように罰則の機会を狙っていないし、マクゴナガルのように厳格でも、クィレルのように何かに怯えてもいない。バーベッジがマグルの「電話」について、板書を交えながら語る。板書が追いついて暇になったソフィアは、セドリックの羊皮紙の隅に落書きをした。

「ドラゴン?」

 セドリックが囁いた。

「ニフラーよ」

 ソフィアは不貞腐れて正面に向き直った。セドリックは少し慌てていたが、何か思いついたいたずらっ子のような表情でソフィアの羊皮紙に落書きした。箒とスニッチだ。セドリックが机の下で杖をヒュンと振ると、セドリックの羊皮紙にいたニフラーの落書きがソフィアの羊皮紙に移動して、箒に乗ってスニッチを捕まえようとびゅんびゅん飛び回った。その様子が可愛くて、ソフィアは笑った。

 授業の後、隣の席を見たらセドリックはいなくなっていた。最近のセドリックは目を離すとすぐにいなくなってしまう。慣れもあって、ソフィアは気にせずに教科書やインク瓶を纏めた。

 クィレルに質問しようと思ったソフィアは、大広間に直接向かわずに、職員室へ立ち寄った。授業で「狼人間に噛まれた際の処置方法を説明せよ」について羊皮紙一巻分の宿題が出たが、調べていく中でわからないことがあった。提出期限は迫っていたので、質問しに行かなくてはならない。職員室では、クィレルはスネイプからできる限り離れた席に座っていた。誰にでもそうするとソフィアはひとり頷いた。

「クィレル先生、少し質問があるのですが――」

「き、きみはアスターさんだね。ど、ど、どうかしたのかな」

 クィレルは目元を痙攣させ、吃りながら引き攣った微笑みを浮かべた。

「変身していない狼男に噛まれた場合、処置方法が同じなのでしょうか。特に対処は不要ですか?」

「な、なるほど。きょ、興味ぶ、深い質問ですね。お、お、お、恐らくですね……」

 クィレルの説明は簡潔で分かりやすかった。吃って聞き取りづらい分、図や文字を黒板に書き出してポイントを押さえられた説明はすんなりとソフィアの頭の中に落とし込める。本来はマグル学の教授だったが、クィレルの闇の魔術に対する防衛術の授業も十分分かりやすい。(毎回ではなく、クィレルの声が奇跡的にも吃りが比較的マシで、さらにソフィアが眠くならない授業という条件が必須なので、天文学的確率だ。)理論ばかりで詰まらないという意見も理解できるが、ソフィアはクィレルの授業が嫌いではなかった。教室が臭すぎるという理由で、占い学と並んでガッカリしたと思ったことにも、今では若干後ろめたささえ感じるほどだ。

「先生。マグル学についても、質問してよろしいですか?」

「わ、私でよければ。も、もう、ひ、昼休みが、お、終わってしまいます。ゆ、夕食後は、ど、どうでしょうか」

「有難う御座います!」

 優しげに微笑んだ(目元が痙攣しているので引き攣った笑みにも見える。)クィレルにソフィアは礼を述べた。グリーンイグアナが眠たそうに身をよじり、机の上で丸くなっている。その様子をつい見ていると、クィレルは「そろそろ……」と言いにくそうに告げた。早く出て行けと言われてるようで、ソフィアは慌てて職員室を失礼した。

「おっと!」

 廊下を歩いていると、栗色の女の子が向かい側から走ってきた。髪の毛がぶわりと警戒した猫のように広がっている。少女はしゃくりあげて、涙を拭うように顔を強く擦りながら走っていた。ぶつかりそうになったことにも気付いていないのではないだろうか。慌てて避けたソフィアだが、ぶつかられそうだった事以上に彼女が泣いていたことが気になった。裏地が紅色のローブを着ていた。グリフィンドールの下級生だろうかと首を捻る。

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