immature love | ナノ


▼ おかしな時間割5

 夕食の席で「緊張するな」と珍しく少し青ざめたセドリックが言った途端、ソフィアはオートミールを吐き出した。汚いと非難せずにナプキンを差し出してくれるのがプリンス・ハッフルパフである。緊張しているセドリックよりも、ソフィアは顔を青くして口を覆った。

 クィディッチ! すっかり忘れていたわ!

 三年生になると、一年生の時と比べて授業が二つも(セドリックは五つも!)増えるのだから大変だった。授業の内容も難しくなっているのに、量も増えてしまってはたまったものではない。だからか、セドリックのクィディッチ選抜試験の直前になるまで、すっかりソフィアの頭から抜け落ちていたのだ。

「大変、まだ横断幕作れてないわ!」

 衝撃から回復したソフィアは叫んだ。

「ソフィアったら、やっぱり忘れてたのね。部屋に戻ったらすぐ寝ちゃうんだもの、マルタと一緒に進めておいたわよ。あとは仕上げだけ」レティがふふんと鼻を鳴らした。
「貸しだよお、ソフィア」マルタがウインクする。

 得意げな二人に頭が上がらない。ソフィアは何度もお礼を言った。セドリックは何かを企む様子の三人に首を傾げていたが、追及しないと決めたらしくチキンを頬張っている。

「ありがとう。準備もしたいから、僕は先に行ってるね」セドリックは席を立った。

「私たちも行きましょうか」

 マルタが最後のミートパイを食べ終えたのを確認してからソフィアは言った。

 初秋の肌寒い夕暮れの中、ソフィアたちはクィディッチ競技場へと急いだ。レティとマルタ合わせ三人で持っても、引きずるほど大きな横断幕は「セドリックは我が誇り」とキラキラ輝く魔法を施された文字で書かれている。セドリックが見たら、恥ずかしさで顔が沸騰することは間違いがなかった。

 シーカーの選抜試験を受ける者は上級生だけではない。他に下級生が何人もいた。ソフィアが知っている人物ではセドリックの他にリーアンも受けていた。小柄な彼女は、飛行術も上手く、素早くて小回りが効くからシーカー向きだとソフィアたちの一個下の代では専らの評判だ。それでも、緊張に青ざめたリーアンより、隣で微笑むセドリックが勝つ未来はこの場にいた誰もが想像できただろう。シーカーには比較的大きな体躯は、一瞬シーカーに向いてないとも言われそうだ。しかし、彼の飛行術が誰よりも丁寧で美しいのをソフィアは知っている。

「頑張って、セド」

「ありがとう、皆来てくれたんだね」

 良いところ見せないとなと頬を掻いて笑うセドリックに、勿論よとマルタは頷き、横断幕を浮遊呪文で器用に浮かせて見せた。その文字を読んだセドリックの顔から笑みが引いていく。

「流石に……これはちょっと恥ずかしいよ。気持ちは嬉しいけど……」

「私たち頑張って作ったのよ。応援したくて」

 レティの強気な意見にセドリックはそうだけどと色々呟いていたが観念したように項垂れた。セドリックはどうにも押しに弱いようで、芯はあるのだがちょっとした自分が我慢すれば良いことは見逃しがちだ。ソフィアたちはセドリックと別れ、観客席の方へ向かう。他に来ていた見学者は横断幕を見て笑い、セドリックは我が誇りと高らかに歌い始めた。ハッフルパフのこういった和やかな空気がソフィアにとってはかけがえのないものであり、大切だった。皆の笑顔を見るたびに、この寮に入れてよかったと心から感じられる。ソフィアは即興の歌を男子にも負けない大声で歌った。

 キャプテンが候補者を集めている。どうやら選抜方法について話しているらしい。それを遠目に見て、しみじみとレティとマルタが呟いた。

「やっぱり、セドリックってかっこいいわよね」

「そりゃプリンス・ハッフルパフだもん」

 確かに、セドリックは十人中十人がかっこいいと答えるだろう美青年だ。ソフィアは、二人の発言にうんうんと何度も頷いた。普段のきっちりと着こなした制服も真面目な美青年といった感じがするが、トレーナーとゆったりしたパンツを履いたセドリックは珍しくラフな雰囲気で新鮮だった。

「でも、王子っていうより今はクィディッチのスーパープレイヤーみたい」ソフィアが言った。

「お前ら、贔屓目が凄いな」

 ギリアンが呆れたように言うと、レティは「自分がモテないからって僻みは良くないわ」と釘を刺した。それに片眉をあげたギリアンが不満そうに反論する。二人の口喧嘩を眺めている間に選抜が始まった。選手候補者たちは箒に跨り、地面を蹴る。試験は簡単なもので、数組に分かれ、何回か投げられるゴルフボールを取るというものだった。この試験をパスした者が明日土曜の朝に行われる最終選抜へ進めるらしい。


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