immature love | ナノ


▼ おかしな時間割4

「もし。そこのあなた……そう、あなたよ」

 トレローニーは突如ソフィアを指差した。ソフィアは眉を下げ不安げにセドリックを見た後、トレローニーと見つめあった。大きな瞳がぎょろりとソフィアを見つめている。

「あなたのご両親はお元気?」

「元気ですけど……」

「あたくしが貴方の立場だったら、そんなに自信ありげな言い方はできませんことよ」

 トレローニーは、フラフラとまるで行き場を無くしたゴーストのような足取りでテーブルの間を練って歩いていく。ソフィアの固く握り締めた手をそっと解くように重ねられた手の温もりで、ソフィアはやっと張り詰めていた息を吐き出せた。セドリックが元気付けるように手を握ってくれている。暑い部屋の中なのにいつの間にか冷え切っていて、人の体温にこれ以上ないほど安心感を覚えた。

「占いなんて、デタラメだって父さんが言ってたんだ。ソフィアのご両親に不幸なんて絶対に起こらないよ」

 セドリックが身をかがめソフィアの耳元に口を近づけた。授業中にこんなにも堂々と内緒話をするだなんて、普段のセドリックからは想像もできないことだ! ソフィアは驚き半分、優しさへの嬉しさ半分で口元を緩めた。二人の様子を見てトレローニーはフンッと鼻を鳴らし、少し声高に話を再開した。

「さあ、皆さん。一年間、占いの基本的な方法をお勉強致しましょう。今学期はお茶の葉を飲むことに専念いたします。来学期は手相学に進みましょう。そして夏の学期には水晶玉に進みますが……残念ながら、このクラスの誰かと永久にお別れになることになりそうです」

 トレローニーが残念そうにソフィアとセドリックを見遣るので、レティなんて顔が青ざめて心配そうだ。ソフィアは、自分たちの心配よりも、既にうんざりした気持ちが大きくなっていた。これではまるで嫌がらせだ。

 まだ授業が始まってもいないのにソフィアこの授業を選んだことを後悔した。この先生は、いわば人の不安を煽るのが大好きなタイプなのだろう。人の家族をダシに不安を煽ろうとするだなんて、不謹慎だという憤りさえソフィアは確かに感じた。両親の不幸を仄めかされた時はあんなにも不安だったのに、手からこの体温を感じるだけで勇気が出るのだから不思議だった。

 張り詰めた沈黙の中行われた授業はなぜか退屈で、覚えていたことといえば紅茶がやけどするように熱く味わう余裕さえなかったことくらいである。セドリックが自分のカップから大いなる幸福が訪れると読み取ってくれたが、すかさずトレローニー先生が否定して授業は幕を閉じた。

 ガッカリしたといえば、占い学と並ぶのが闇の魔術に対する防衛術の授業だ。クィレル先生の教室は強烈なニンニクの匂いが充満していて、匂いは占い学の教室よりもひどかった。教室にいるだけで拷問を受けているようだった。授業の冒頭、クィレルがターバンは休暇中にやっかいなゾンビをやっつけたお礼としてアフリカの王子様に頂いたと言っていたが、嘘くさいとソフィアは思った。他のみんなもそう思ったようで、ギリアンなんてわざと詳細に聞きたがった。

 一年生の頃に廊下で少しだけクィレルと話したことがソフィアはあった。(廊下での魔法を減点されただけなので、良い思い出とは言えない。)その時の彼は自信に満ち溢れていたように思うし、こんなにも何かに怯えてはいなかった。ルーマニアで出会った吸血鬼に怯えているという噂もあながち嘘ではないかもしれないと、ソフィアは同情するようにクィレルを見つめた。勿論、ターバンの話は信じたわけではない。


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