immature love | ナノ


▼ 組み分けの儀式5

 混み合うせいで大広間を出るタイミングを失ったソフィアたちは一年生が監督生に案内される後ろからついていくことにした。大広間を出て地下に行くと、寮の入り口は廊下右手の陰にある樽の山にあった。二つ目の列の真ん中の樽の底を監督生が二回叩く。

「これはハップルパフ・リズムって呼ばれていてこのリズムで叩かないと熱々のビネガーを頭から被るはめになるから気をつけて」

 監督生の説明を真剣に聞いていた一年生たちは寮への扉が現れたことに感動したように声を上げた。その反応に得意げな笑みを浮かべた監督生は近くにある絵画を指さした。そこには果物が盛られた器の絵画があり、なんだろうと一年生たちは首をかしげる。セドリックがギリアンにこっそり耳打ちするとギリアンはセドリックを肘でどついた。もしかしたらギリアンが入学当初ビネガーをかぶったことを言われたのかもしれない。

「これはハッフルパフ生だけの秘密だよ」

 そう言った監督生はウインクすると梨をくすぐった。すると梨があっという間に扉の取っ手らしきものへと変わる。

「この先は厨房だ、もしお腹が空いたら行くといい。中にいる屋敷しもべ妖精たちが何かくれる……といっても、頻繁に行くのは控えるようにね。それと、しもべ妖精たちに高圧的な態度は取らないこと」

 ぜひ時間があったら厨房に行ってみるといいと言った監督生は気を取り直したように寮へと案内した。低い天井の円形の部屋で、木目調の壁にある円窓からはちょうど地面に出るのか草花の影が見え、朝だったら太陽の光が差し込み風にそよぐ花々の姿を見られる。アナグマの巣を連想させる丸い扉があり、それをくぐり抜けると部屋に着く。黄色と黒の沢山おかれたふかふかのひじかけ椅子やソファ、天井から吊るされたり窓辺に置かれた綺麗な植物たち、想像以上の素晴らしい寮に一年生達は互いに顔を見合わせて嬉しそうにしている。

「ハップルパフに選ばれて落胆した人も中にはいると思う。そんな人たちのためにもまずは誤解を解いておきたいんだ。一番まぬけな寮だって思われてる誤解をね」

 そう言って監督生は一年生たちを真剣に見た。今度はソフィアが耳打ちされる番だった。やめてよと怒るソフィアをセドリックはしーっと唇に人差し指をやる仕草で静かにするよう促した。監督生は静かになったのを見届けると話を再開した。

「才能ある魔法使いを輩出してきた数でいったら他の寮と変わりはないんだ。もし僕の話を信用できないようなら、グローガン・スタンプ、アルテミシア・ラフキン、ドゥガルド・マクフェイル、ニュート・スキャマンダー、ブリジット・ウェンロック、ヘンギスト……数え上げたらキリがないけれど彼らについて調べてみればいい。なぜ彼らがハップルパフだと有名じゃないのかというとひとえに謙虚だからだ。ハップルパフ生は声高にこの事を言わないんだ」

 監督生の出している名前は、大半が聞いたことのある著名人だ。

「それにもう一つ誇れる事がある。それは、闇の魔法使いや魔女を輩出した人数は圧倒的に少ないからだ。スリザリンはもちろん、スリザリンと敵対しているグリフィンドールでさえ僕たちより怪しい人を多く輩出しているんだよ」

 ウインクして監督生は周りを見渡す。

「それにハップルパフ生はみんな薬草学が得意なんだ。なんでだと思う?」

「寮監がスプラウト先生だからですか?」

 アーニーが律儀に手を上げて答えた。

「半分正解ってところかな。この部屋に沢山植物があるだろう?実は、この植物たちは全部魔法植物なんだ! 喋ったりするやつも中にはいるよ。スプラウト先生は面白い魔法植物をここに持ってきて生徒たちに見せてくれる。だから魔法植物に触れる機会は他寮の生徒より多いし、興味も持てるってわけ」

 中々鋭いねと監督生はアーニーにウインクをした。ジャスティンが凄いなとアーニーを褒めるように髪をくしゃくしゃと掻き混ぜている。新入生は、もう仲良くなっているようだった。

「最後にもう一度。ホグワーツで一番親切で、慎み深くて、辛抱強い寮の一員になれておめでとう。君たちが、自分がハップルパフ生である事を誇りに思えることを祈っているよ」

 監督生は笑顔でそう締めくくると、部屋割りを発表するよと言って長い羊皮紙を取り出し読み上げ始めた。

 ソフィアたちは暖炉の前の一番の特等席のソファに座り込んだ。ソフィアが列車の中で食べるのを中断した大なべケーキを取り出し、皆でささやかなお菓子パーティーをした。

「毎年あの定例文句だけど、実際に偉人調べた人っているの?」

「私、実は調べたの」

 レティの疑問にソフィアは恥ずかしそうに答えた。レティに続きを促され、ソフィアは続けた。

「本当に偉い人たちばっかりだったわ!」

 ソフィアのシンプルな回答に一同は笑った。何か凄いこととかないのというマルタの質問に、記憶を探るように上を向いたソフィアは「そういえば!」と声を上げた。
「ニュート・スキャマンダーって教科書の著者ってだけじゃないのよ、史上初めてグリデルバルドを捕まえた魔法使いなんですって」

「ダンブルドアじゃないの?」

 セドリックが興味を惹かれたように上半身を起こし、ソフィアを見つめた。

「ニューヨークでスキャマンダーが捕まえたんだけど、マクーザったらダメね。すぐ逃げちゃったらしいわ」

「アメリカの魔法議会から逃げられるならどんな牢獄でも抜け出せるだろうに、自分が作った牢獄に入れられて出られないなんて間抜けだよな」

 ギリアンは肩をすくめて皮肉で締めくくると、そろそろ寝ようぜと寝室につながる扉を顎でしゃくった。同意したレティに連れられ、マルタとソフィアも男子におやすみと言って部屋に向かった。夏休みぶりの部屋は談話室と同様に木目調の壁で天蓋付きのベット(それぞれ仕切りのようにカナリアイエローのカーテンがついている。)が置いてあり、久しぶりなのに全く埃っぽくない上に、布団からはお日様の香りがした。誰が掃除してくれてるのか不思議だった。その晩、ホグワーツ中でクィレルとおそろいのターバンが大流行する夢を見た。



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