immature love | ナノ


▼ 組み分けの儀式4

「僕、本当はイートン校に通う予定だったんだ、それなのにホグワーツから手紙が来てびっくり!」

「イートンって? 私のお母さんがね、ボーバトンに通わせたがったの。でも、叔母さんがホグワーツに行った方が絶対に良いって言って……」

「ボーバトンって?」

 ジャスティンと金髪の少女スーザンが妙に噛み合わない会話をしている。それを聞いて周りの上級生たちが微笑ましそうに笑った。マグル生まれと魔法族では最初はこういった会話にズレが生じるのだ。ジャスティンはマグル生まれだから、あんなにダイアゴン横丁ではしゃいでいたのかもしれない。微笑ましさにソフィアはにっこり笑った。

「君も何か取る? えーと……」

「ザガリアス・スミス。悪いけど、自分から名乗らないような人に取ってもらうつもりはないよ」

「君、そういう言い方は失礼だと思うよ」

 鼻先がちょんと上を向いたブロンドの髪の男の子はツンとそう言うと自分でせっせとポテトを取ってしまった。ビックリしたように目を丸くするソフィアに代わって、セドリックが珍しくきつい言い方でザガリアスを注意した。ザガリアスは、そっぽを向いてポテトに口をつけた。

 全員が満足に食事を食べ、マルタが最後にヨークシャプディングを一口食べたところでぱっと食べ物は皿から消え去り、ピカピカの皿が見えた。一年生は何も知らずにたくさん食べたのでもう食べきれないといった様子でお腹をさすっている。

 まもなくデザートが現れた。フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーに負けないくらいたくさんの種類の味のアイスクリーム、アップルパイ、糖蜜パイ、エクレア、ジャムドーナツ、トライフル、いちご、ゼリー。ライスプディング……他にもたくさんのデザートが並べられている。一年生の女子たちはお腹が満杯なのか名残惜しげにパイを見ながらいちごとアイスクリームを取っていた。

「なにそれ? 初めて見るわ」

「サマープディングよ。オーブンを使わないで、食パンにベリーソースを染み込ませてるの」

「へえ、美味しそう」

「スペインではどんなスイーツが有名なの?」

「チュロスとかかな、甘くないんだけどチョコレートソースにつけて食べると美味しいんだよ」

 イギリスの夏のスイーツの定番だが、マルタはまだイギリスに来て年数が浅いので初めて見るのだろう。嬉しそうにサマープディングを皿によそった。他にもアロスコンレチェがいかに美味しいかというマルタの熱弁を聞き、ソフィアはいつかスペインに家族で旅行に行きたいなと考えた。

 レティが糖蜜パイへ手を伸ばしたところでデザートがとうとう消えてしまい、悔しそうなため息が彼女の口から漏れた。食欲お化けとギリアンがレティを笑っていたが、いつ確保していたのだろうレティは懐のハッカ入りキャンディーをギリアンの口に投げ入れた。チェイサー顔負けの的確なコントロールだったので、セドリックがぎょっとしたようにレティを二度見していた。

「エヘン……全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言。新学期を迎えるにあたっていくつかお知らせがある。一年生に注意しておくが、校内にある森に入ってはいけない。これは上級生にも、何人かの生徒たちに特に注意しておこう」

 ダンブルドアのキラキラした青い瞳が双子のウィーズリー兄弟を見たようにソフィアは思った。確かに上級生で進んで入ろうとする人なんて双子くらいなものだ。

「今学期は二週目にクィディッチの予選があります。寮のチームに参加したい人はマダム・フーチに連絡してください。最後ですが、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入ってはいけません」

 少数の生徒の笑い声が聞こえたが、ソフィアは表情を暗くした。セドリックもクィディッチの話の時は瞳を輝かせていたのに今は訝しげにダンブルドアの説明を待つように見つめている。

「まじめに言ってるの?」

「ああ、真面目だと思うよ。普通なら必ず理由を説明してくれるのに、きっと何か事情があるんだろう。今年一年間だけとも言っているし、気をつけようね」

 ハンナのつぶやくような質問にセドリックが答えた。最後のセドリックの微笑みにまたまたやられてしまったのか、ハンナを筆頭に近くの新入生の女子生徒たちは真っ赤だ。相変わらず天然女子キラーだとソフィアはくすくす笑った。

「あんなに赤くなるなんて、一年生って可愛いわ!」

「あら、リーアン。あなたも去年はあんな感じだったじゃない」

 ソフィア達の一個下のリーアンがくすくす笑いながら微笑ましそうに言うと、レティがすぐさま突っ込みハッフルパフの生徒達は静かな大広間に響かないように声を押し殺して笑った。しかし、ダンブルドアがハッフルパフをにこにこ笑いながら見つめていることに気づいて慌てて姿勢を正した。

「では、寝る前に校歌を歌おう!」

 ダンブルドアが声をはりあげると、他の先生方の笑顔が急に強張った。スネイプはいつも仏頂面だし、マクゴナガルも厳格な表情を崩さないが、いつもにこやかなスプラウト先生がひきつると特に分かりやすいとソフィアは思った。フリットウィック先生にいたっては歌い出しそうなくらいノリノリに見えたが、それはいつもの事である。

 ダンブルドアが杖をまるで指揮棒のように動かすと、金色のリボンが長々と流れ出て、テーブルの上高く昇り、文字を描いて歌詞になった。歌詞がわからないと不安げだった新入生達はそれを見て安堵したように顔を見合わせている。

「みんな自分の好きなメロディーで。では、さん、し、はい!」

 大広間が大きな音のせいで振動したようにソフィアは錯覚した。みんな大声で楽しそうに歌っている。合わないメロディーは不協和音を生み出しているのだろう。ソフィアは、このはちゃめちゃな感じが楽しくてしかたがなかった。みんなバラバラのタイミングで歌い終える中、とびきり遅い葬送行進曲で歌っていた双子の声だけが最後まで響いた。二人が満足げに歌い終わるとダンブルドアは誰にも負けないぐらい大きな拍手をした。

「さあ、諸君、就寝時間。かけ足!」

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